第92話 曲垣君のおばあちゃんの家はどこか懐かしい



「え? 曲垣まがき君のおばあちゃんち、ここなの?」


 曲垣君が案内してくれてのは、居合道場の隣の家だった。


「ここに遊びに来てて、居合を始めた。——行くぞ」


 そう言うと曲垣君はガラガラッと引き戸を開けた。




 古い日本家屋の中から出て来たのは、着物を着た上品そうな老婦人だった。白髪頭の優しそうなこの人が曲垣君のおばあちゃんだと紹介され、僕らも挨拶する。どことなく懐かしい気持ちになる。


 通されたのは和室の客間で、僕のうちとよく似ていた。


「おまえんちも和風なのか?」


「めちゃくちゃ古い平屋だよ」


「へえ、いいな。今度寄らせてくれ」


「うん、いいよ」


 えっ?


 やだ、曲垣君がうちに来たいって!?


 マジか。


 どぎまぎしていると、美紅みく小突こづかれた。


「何を男に懸想けそうしている? しっかりせよ」


「べべべ別に、浮かれてなんかいないさ」


 そこへ曲垣君のおばあちゃんがお茶を運んで来た。そうか、どことなく母さんと似ているんだ。


 一人で懐かしい感覚の原因を噛み締めていると、美紅がさらに僕を小突いた。


一志かずし、説明せよ」


「ええと——」


 僕はやや無理がある話を嘘がない形で説明する。


 つまり、曲垣君の持っている玉飾りが、美紅の親族(鬼の一族は血縁が多いのであながち間違いではない)の作った物で、この家に伝わる由縁ゆえんを知りたいと伝えたのだ。


 曲垣君のおばあちゃんはちょっと驚きながらも、覚えていることをぽつぽつと話してくれた。


「……でも随分と昔のことだしねぇ。そう、あれは母からもらったの。母はその母から。嫁入りの時に娘にがせる物だったらしくて……」


「私が生まれたのが昭和二十一年だから、母が嫁入りしたのは……確かそれより六年前だったわね。だから私の母——颯太そうたのひいばあちゃんはその前から受け継いでいたのでしょう」


「ソウタって誰?」


「俺だ」


「えっ、曲垣君、颯太っていう名前?」


「うるさいな。いいからばあちゃんの話を聞け」


 曲垣君はグイッと僕の顔をつかんで前に向けた。



 つづく

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