第89話 僕の目標は


 同い年のオペラがバイトして食い扶持ぶちを稼いでいるので少々肩身が狭い僕だが、僕は僕で刀を使えるようになりたいという思いで稽古を続けていた。


 僕にたまに乗り移って来る『一志ぼく』ぐらい刀が使えるようになるにはどのくらいの研鑽けんさんを必要とするだろうか。


 まずは初段を目指して稽古をしている。二段の曲垣まがき君に近づくのが当面の目標だ。




 その日も相変わらず美紅みくが稽古の見学に来ていた。なぜかはわからないけど僕が稽古をするのが面白いらしい。


 稽古が終わり——正座して挨拶をすませる頃、美紅が落ち着きなくキョロキョロとあちこちを見回しているのに気がついた。


「何? 何かあった?」


「いや……気のせいかと思うのだが……鬼の気配というか、何か鬼の遺物いぶつがある気がする」


「鬼のイブツって何?」


「鬼の持ち物——とか鬼の作った物とか……鬼の匂いが残った物というか」


 少し鼻をひつくかせて視線を彷徨さまよわせる彼女を見て、僕もまたキョロキョロと辺りを見回す。


 真似してみても僕には何もわからないけど。


「うむ、この近辺に、鬼に関わる遺物があるのは間違いない」


 美紅は確信したらしく、鬼の遺物とやらの気配を追ってふらふらと道場内を歩き出す。


 目指すは神棚かみだな——ではなくて男子更衣室だった。


「待って! 美紅、開けちゃダメ——!」




 つづく

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