第88話 居候が増えましたが僕は元気です

 鬼の細工物として伝わる宝玉がある。


 うずらの卵よりも小さいが、確かに卵型の宝玉で、明るい翡翠色の方が『転生卵てんせいらん』、漆黒の漆塗りに朱色と白色と金色を少し散らしたいかにも通好みの方が『反魂玉はんごんだま』と呼ばれる。


 世の中には黒光りする『反魂玉』が多く出回ったそうであるが、『転生卵』は幻の如く見つからず、歴史の狭間はざまに浮かんでは消え、浮かんでは消える宝物であったとされた——。





 うちには変わった居候いそうろうがいる。


 プラチナブロンドみたいな長い髪をツインテールにした強い系女子・美紅みく


 彼女の別の人格で浅葱あさぎ色の派手な髪の愛くるしい系少女・美羽みう


 ピンクの派手な髪色で小柄な元同級生の家出少年・紫堂しどうオペラ。


 そして話をする不思議な刀・『鬼丸おにまる』。


 オペラについて補足するなら、僕の母さんが本人と隣町の紫堂家を訪れたところ、既に空き家になっていた事を付け足しておく。


 近所の人も行き先を知らず、警察でオペラに該当する家出人の届出も無かったことから、正式にうちで居候する事になったのである。ちなみにちゃんとバイト先を見つけて来て働いているのでその点は尊敬しようと思う。


「だって君のお姉ちゃんキビシイんだぜ」


 どうやらのどか姉ちゃんがいろいろ世話を焼いたらしい。オペラが普通の家出少年——というか一家離散少年とわかったせいなのか、少しは同情して生活指導をしているのだろう。


「バイトすれば食費とスマホ代ぐらい払えるし、それに貯金して免許取れってさ」


「車の?」


「多分ね。でも資格でもないとボクなんてシューショク出来なそうだしね」


 のどか姉ちゃんの事を「キビシイ」とか言いながら、それなりに頼りにしているようだ。


 そういや、のどか姉ちゃんは美羽と美紅のことは怖がっているくせにオペラは怖くないらしい。ま、彼は普通の人間だからかな。


 ちなみにオペラは美紅と美羽の二重人格にもすぐ慣れた。美羽の不思議な力を先に見ているからだろう。意外とふところが深い奴だ。





 つづく

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