第87話 意外と厳しい母さんと紫堂の受難



「ただし条件があります」


 おっと、美羽みう美紅みくの時より厳しい声だぞ。


 僕とオペラは顔を見合わせて、それから二人そろって母さんの方へ顔を向ける。


「明日、私と一緒にあなたのおうちに行きましょう。いいですね」


「えっ、それはちょっと……」


「母さん、オペラはもうすぐ十八になるんだよ」


「まだ、未成年です!」


 母さんはいつになくキリッとして言い切った。


「成人年齢というのは何をしても良い免罪符ではありません。いいですね?」


「……はぁい」


 オペラはしゅんとしてうなだれてしまった。





「とりあえず、今日泊まるところは心配ないからいいだろ」


「うう……ボク、実家じっか行くのやだぁ」


「そうだよなあ」


 オペラは僕の部屋に泊まることになった。何気なく『鬼丸』に目をやると澄ましてただの刀のふりをしてくれている。


 ほんとは昼間の僕に乗り移ったの事を聞きたかったのだけど、それはまた後になりそうだ。


 ——其角きかくさんも美羽もあれは『一志ぼく』だと言う。


 僕はあの半分起きて半分寝ているような感覚を覚えているばかりだ。どうやって『鬼丸』を呼んだのかもわからないし、鮮やかに相手の手を斬った手応てごたえもない。


 少しだけ身体の動きが残っている気がするけど、きっとこれは居合いあいの動きなんだろう。


 そんな事を考えていると、オペラがピンク色の髪の毛を指に巻き付けながら僕の顔を覗き込んでいるのに気がついた。


「わっ、なんだよ?」


「いやぁ、昼間のたかむら君とは別人だね」


 そう言ってさっきまで暗かった顔をぱっと明るくさせた。よほどのやったことが痛快だったらしく、帰り道はずっとその事を話していた。


紫堂しどうだって、立ち向かったじゃないか」


「あれは……!」


 紫堂オペラはまだれている頬を歪めて泣きそうな顔をする。


「あれは、きみがいたから……君が話しかけてくれなかったら、きっと……」


 そのままだったと思う。


 紫堂オペラはそう言った。


 そんなふうに思ってくれてたんだと、僕はちょっと胸が熱くなる。


 結構良いやつじゃん。


 そこへ——。


「オペラちゃん! 一緒にお風呂入りましょう!」


 美羽が二人分のバスタオルやらを抱えてやって来た。


 え?


「え?」


 僕と紫堂オペラの動きが止まる。


 にこにこしながら、美羽は構わずオペラの手を取った。


「ちょ、ちょっと待って!?」


 オペラが目をシパシパさせながら僕にしがみつく。僕もオペラと美羽が風呂に入るなど言語道断絶対拒否なので、しっかりと抱き抱えた。


 っていうか、いつから勘違いしてた!?


 もしかして髪の毛の色が可愛いから?


 背が低いから?


 ボクっ扱い?


 だから『オペラちゃん』呼びだったのか!


「もう〜、砂だらけなんだからお風呂に入らなきゃだめですよぅ」


 美羽は勘違いしたままオペラの手を引っ張っるから、彼は顔を赤くして叫んだ。


「ボクは男だよっ!」




 紫堂オペラ編終わり

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