第86話 だから勝手にやって来るアイツは誰なんだ


 公園を出ると、一志かずしは身体を震わせた。


「一志?」


 美羽みうが心配そうに声をかけると、彼は驚いた顔で自分の抱えているものに目を向けた。


「え? あ! 戻ってる!」


 その台詞に今度は美羽とオペラが驚いた。


「もしかして」


たかむら君かい?」


 ありがとー、と言いながら抱きつくオペラにびっくりしている一志を見ながら、美羽はどこかへ帰ってしまったに向かってつぶやいた。


 ——また会えるよね。





「えーと、そういうわけで彼をウチに泊めてあげるわけにはいかないでしょうか?」


 意識を取り返した僕は、篁家の座敷で母さんに頭を下げていた。座卓のこっちには僕と美羽と紫堂しどうオペラ。あっち側には母さんとのどか姉ちゃん。


 そっと下から覗き見ると、母さんは相変わらずおっとりとした感じで首を傾げている。


 のどか姉ちゃんはこめかみをひくつかせて、今にもキレそうだ。


 なんたって今度こそ正真正銘の家出少年を連れて来たんだからそりゃ怒るだろう。


「……か」


 のどか姉ちゃんが僕を怒鳴ろうとした時、母さんが片手でそれを止めた。姉ちゃんは「うっ」と言葉を飲み込む。


「わかりました」


「母さん、ありが……」


「ただし条件があります」




 つづく

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