第85話 その剣は正確無比にして
『
——でも、彼は一志本人だと思う。
『鬼ヶ島』で
では彼は一志の中に眠る別の人格なのか?
『……俺は——』
大人びた一志が口を開きかけた時、腰を抜かしていたグラサン野郎がぱっと起き上がり、背を向けていた一志に飛びかかった。
——否。
飛びかかろうとした。
男の行動よりも早く、一志の手が動いた。鞘をしたまま『鬼丸』を背後に突き出し、相手の
「うあ……」
か細い悲鳴を洩らして、グラサン野郎はぐずぐずと崩れ落ちた。腹を抱えてうずくまるその背中に、『一志』はすらりと抜いた『鬼丸』の刃を乗せる。
ピタリと寸止めされた刃は揺らぎもしない。刀を向けられた方も必死で震えを止めた。
『飲み込みが悪いようだな。この町に来るなと言ったのは、俺たちに手を出すなと言う意味だ』
今度こそわかったな? と念を押すと、一志は納刀した。男たちは美羽から見ても完全に戦意喪失し、二度と歯向かおうとはしないだろうと思えた。
『行くぞ』
彼は落ちていた模造刀の入った長バックを拾い上げると肩にかける。左手には黒鞘の『鬼丸』を携え、空いている右手を伸ばして紫堂オペラに肩を貸す。
「
『なんだ?』
「ありがと」
礼を言われた一志は大人びた冷ややかな目を一瞬だけ見開いた。それから照れくさそうにそっぽを向くと、『礼ならコイツに言え』とうそぶいた。
つづく
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