第84話 規格外


存外ぞんがいきもの小さい男であったな』


またもやしわがれ声が聞こえて来る。


『うるさい。黙ってろ』


 高校生——一志かずしの姿をして一志ではないその人は、抜き身の刀身をぶら下げたまま、今度は地面に転がっているグラサン野郎に近いた。


 靴の先で軽く肩先を蹴ると、男は「うう……」と唸る。はそいつの鼻先に『鬼丸おにまる』を向けた。


『起きろ』


 低い声で言うと、グラサン野郎は薄めを開け、目の前のものを凝視する。


「うわっ!」


 日本刀を突きつけられている事を認識した彼は流石さすがに身体を震わせた。


『二度とこの町に来るな。わかったな?』


 グラサン野郎は血の気のひいた顔でガクガクと頷くと、最後に悔しそうに「わ、わかった」と口を開いた。


 冷たい目でそれを見下ろしていたは刀を服の端で清めるとすっと納刀する。高い金属音を立てて、『鬼丸』は黒塗りの鞘に収まった。


『行くぞ、紫堂しどう


 いつの間にか駆け寄っていた美羽みうが、紫堂オペラに肩を貸して立ち上がる。腫れた頬を風に晒して、まるで不思議な物を見るような顔をしている。


「……たかむら君なのかい?」


『……』


「別人に見えるけど、ボクの名前を知っているってことは——」


 オペラに肩をかしながら、美羽もまたを見つめた。


「前に会った『一志』なの?」


『……今日は美羽の日か。美紅みくに会いたかったがこれだけは仕方ないな』


 相変わらずは冷ややかに、そして美羽から目を逸らしながらつぶやいた。今にも何処かへ帰ってしまいそうな彼の様子に胸が詰まり、美羽は叫んだ。


「教えて! あなたは誰なの?」




 つづく

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