第75話 いろんな縁が僕の周りに生まれてる気がする


「なに? 彼女?」


「ちがっ、違うよ!」


「だよねぇ、お母さんみたい」


 そう言って、くっくっくと笑う。


 美羽みうのことが『お母さん』みたいって、口うるさいってことか? 失礼な奴だな。


 ところが美羽は単純に喜んだ。


「ほんとですか? 私、お母さん大好きです!」


 にこにこっと笑うと、今度はオペラがタジタジとなる。


「ふつー、喜ぶかよ……」


「え? 嬉しいですよ」


「変な奴ぅ」


 少し酔っているのか、オペラは頬を染めた。それとも美羽の可愛さに照れたのか。


「そんで、君こそ何してんの?」


 オペラはそう言って、今度は僕の背負っている黒い長鞄に人差し指を向けた。


「まあね。ちょっと習い事」


「なに? 何習ってんの?」


「……居合いあい


「いあい?」


 オペラは首をかしげる。美羽が向かい合って同じポーズをしながら教えた。


一志かずしは、刀の使い方を習っているのです」


「へえ。すごいね、そりゃ」


 片目を細めて、オペラはその言葉が心からのものでないことを示す。彼が学校を辞めた理由の一つが家庭の金銭的余裕の無さと聞いたから、習い事をする余裕があるとみられたのだろう。


 しかし彼の姿を見ていると、とても家計を助けるために学校を辞めたようには見えなかった。


 どちらかと言うと、その姿のまま何もしていない——フリーターですらないように見える。


「なあ、紫堂しどう。本当は今何やってんの?」


「……うるさいな。関係ないだろう」


そで振れ合うも他生の縁って言いますよ〜」


 美羽がにこにこしながらオペラの顔を覗き込む。彼は一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに表情を戻した。


 ぎこちない笑い方をしながら「何言ってんの」と答える。


 美羽が何かわからないが、自分と僕との間柄を肯定したからだろう。


「まあ、元同級生のよしみもあるよね。でも心配しないでよ。これでもなんとか暮らしてるんだから」


 その言葉に妙に不安になる。


「暮らしてるって、どういうことさ?」


「一人暮らし。正確には居候だけど」


「ええ? 家を出てんの?」


「おかしくないだろ、別に。来年にはもう十八だよ」


 確かに成人年齢の十八にはなるけど……。


「親とか何も言わないの?」


「言うわけないだろ、あんな奴らが!」


 少しキツイ答えに僕も少し動揺して身体をひいた。オペラはハッとして両手をぶんぶんと振って謝ってきた。


「ごめん。君にあたっても仕方しかたないのにな。忘れてよ、今の」


「そんなことできないだろ。心配するだろ——」





 つづく

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