第63話 いつの間にか友達のような君らへ



『鬼丸』は、ぐっと口元をへの字口にして黙り込んだ。


「『鬼丸』?」


『……わからん』


「なんで!?」


『お前の時間軸に縛られるというておろうが! 今のわしは百年前の志乃しのの元から若造あさくらを連れてきたばかりじゃ。わしを送り出した志乃のその後はわからんわい』





 真夜中——。


 僕は満月の光が差し込む大広間の縁側えんがわに寝転んでいた。


 月の光がとても強くて、庭の木々が地面に黒黒と影を落としている。


 キ……、と床がきしむ音がしてそちらに顔を向けると、鬼姫・美紅みくが立っていた。


 真夜中の十二時を超えたので、美羽と交代したらしい。ルームウェア姿だったが、律儀に髪をツインテールにしている。


「まだ、やすまぬのか?」


 美紅は身を起こした僕のそばに来て座った。


「うん、まあね。昼間にいろいろあったから眠れなくて」


行方ゆくえの知れぬそなたの姉君の話であったな」


 既に美羽との情報交換は済んでいるようだ。僕は軽く頷いた。


「結局、僕は何もできないんだなあ」


 不思議な刀を持っていても、時間を超えても、結局は僕自身は何もしていない。


 戦うのは美紅や美羽、それから僕の中の誰か。志乃姉さんの行方がわかっても、僕は助けには行けない。


 今度は美紅が首を横に振る。


「そんな事はない。そなたが現れなければ、『鬼ヶ島』はいつまでも戦いの連鎖を断ち切る事は出来なかった」


 それに、と彼女は続ける。


「それに、『鬼丸』の寄るべき時間軸がそなたになったからこそ、姉君の行方が知れたのではないか? それは僥倖ぎょうこうと言えよう」


 ぎょうこう?


「思いがけぬ幸運という意味だ」


 確かにそうだなと、僕は素直に頷いた。確かに志乃姉さんの行方ゆくえがわかったのは思いがけない幸運だ。


「明日は早いのだろう? 早く休むが良い」


 確かに学校だし。


 それに誰かに話す事で少し落ち着いたのもある。


 こうやって心の内を吐き出せたのは『鬼丸』が彼女らを連れて来たおかげ——かもしれない。


「いつかどこかへ帰るとしても、必ず挨拶して行ってくれよ?」


「どうした、急に?」


「なんでもないって」


 だって、別れの挨拶も無いなんて、寂しいじゃ無いか。




たかむら家編』終わり

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