第62話 鬼丸の言い訳を聞いてやる



 闇夜で突然顔面にぶち当たって来た『鬼丸』を引っつかむと、僕と美羽みうは音を立てないように急いで自室に引き返した。


 忍足しのびあしで歩く僕の後ろを、美羽は宙に浮かんだままスーッとついて来るので、こういう時は便利そうだなと頭の片隅で思ったりする。


『モゴモゴ……』


 何か喋ろうとする『鬼丸』の口を塞ぎつつ、部屋に入って戸を閉める。


「『鬼丸』!」


『おおう。なんか久しぶりじゃの〜。それに嬢ちゃんも元気そうじゃな』


 久しぶりというほど離れていたわけじゃ無いけど、彼にしたらそれくらいの感覚なのかも知れない。


 僕は鼻の痛みを忘れて、『鬼丸』を問いただした。


「どこに行ってたんだよ!? 出かける時は一声かけろ!」


『そんな事を言われてものう。わしの意志で飛ぶわけではないからの」


『鬼丸』は鉄製の顔をウニウニと動かしながら返事をする。


「……? だってさっき蔵から飛び出して来たじゃないか」


『あれくらいは一志かずしのためならえんやこらじゃ』


 なんじゃそりゃ。


 隣で美羽がくすくす笑っている。


「一志が呼んだんじゃないかな?」


 僕が?


 ——……うん。呼んだら飛んでくる刀。悪くないぞ。


 顔にぶつかって来たのは許してやろう。


『じゃが、時を超えるのはわしが制御出来るものではないぞ。お主が望もうとて、志乃しのの所に送る事は出来ぬ』


 それは前にも言っていたな。


「そうか、やっぱり無理か」


『じゃが、逆に——お主が望まぬとしても、飛ぶ事もあり得るのじゃ。未来の事は不確定なり。この先の事はわからぬぞい』


「母さんが言っていた。お前は『どこの時代にも在り、どこの時代にも無い刀』だって」


『ほほう。言い得て妙だが事実よの』


「と、いう事は」


『という事は?』


「お前は未来にも存在している」


 つまり未来の事——これから起こる事がわかっているはずだ。


『違う、違う! そうではない! わしは競馬の予想も出来なければ、当たりの宝くじもロト6もスクラッチもわからんわい』


 いろいろ試してんじゃないか。


『鬼丸』は慌てて首(?)を振って説明し始めた。


『わしは共に飛ぶ使用者の時間軸に記憶を左右されるんじゃ。今なら一志の記憶に沿って、お主の飛んだ八百年前から今日までの記憶じゃな。しかもお主に関わりのある部分だけ有しておる』


「……僕に関係ある事?」


 だから志乃姉さんの事を知っていたのか。


「わかったよ。志乃姉さんの所には行けない。でも志乃姉さんの事はわかるって事だね」


『そうじゃ』


 それなら——。


「姉さんは、どうなった?」





 つづく

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