第44話 そういえば僕も変化したんだった


 涼しげなガラスの器に、砂糖を煮詰めた薄黄色い蜜と氷、ふっくらツヤツヤの白玉を入れて、美紅みくは得意げに僕の前に勢いよく置いた。


「心してしょくせよ」


「僕だって手伝ったじゃないか」


母君ははぎみよ、明日は何を作るのだ?」


 美紅は僕の愚痴も聞かず、もう明日のおやつの話をしている。なんて気の早いやつなんだ。


 木製の匙ですくって白玉を口に運ぶ。つるんと口に入るそれはもちもちとして、すごく懐かしい味がした。





 お盆に乗せて、母さんがのどか姉ちゃんの分を部屋まで運んで行く。姉ちゃんが『二重人格』の美紅を怪しく思っているのは普通の事だ。


 むしろなんの疑問もなく受け入れてる母さんの方が不思議だよな。


『二重人格』といえば——。


 僕の中にも誰かがいることも事実だ。


 あの『島』で僕は使ったこともない刀をいとも簡単に振るった。一度は意識があったが、二度目は完全に記憶がない。


 美紅も美羽みうも、鬼の其角きかくさんも『悪い奴ではなかった』『やたら強かった』と言うが、それが誰なのかわからないのが気持ち悪い。


 其角さんなんかは『一志かずしと同じ魂を感じた』と言ったが、僕はそんなに強くない。


「ごちそうさま」


 僕は白玉を食べ終えると、席を立った。





 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る