第42話 現代でも僕らは元気です


鬼丸国綱おにまるくにつな』——。


 ——鬼を斬る霊刀。鎌倉時代から存在し、悪夢を斬った刀。時の権力者の間を渡り、徳川家康の元へ届いた守り刀。


 そこまで読んで、僕は本を閉じた。


 スマホで調べても、同じ事しか出て来ない。むしろ同名のゲーム関連の情報が出て来る。


 ——わざわざ借りてきたのに。


 僕は自分の家に伝わる『鬼丸』という刀について調べていた。その為に町の図書館にまで行って日本刀についての本を借りてきたのに、うちの『鬼丸』についてはさっぱりわからない。


 そもそも有名な刀では無いのだろう。


 異質な物体。


 僕は刀の良し悪しなどわからないから、『鬼丸』が名刀であるかなどわかるはずもない。


一志かずし! どこだ!?」


 張りのあるよく通る女性の声で名前を呼ばれて、僕はやれやれと机を離れる。


「部屋にいるよ」


 答えるかどうかのうちに部屋の戸が開けられて、緋色の着物をなびかせた背の高い女性が入ってくる。


 美紅みくだ。


 いつの間にかうちに居着いついた彼女は、長い亜麻色の髪をツインテールにして、見た目だけならコスプレ女子だが、その実態は鬼の力を使う戦闘系女子だ。


「一志! 早く来い」


「なんだよもう」


「馬鹿者、其方そなたの母上が団子を作るのだぞ!」


 尊大にして強者の美紅をいとも簡単に手懐てなづけたのは、母の作る素朴な菓子だった。何を置いても母の手作りの菓子が最優先の鬼姫おにひめとなってしまった。


 ちなみに、鬼姫ってのはあだ名みたいな物で、爪と犬歯がやや長いだけの女子である。


「一緒に作るぞ! 早く来い」


 そう言って彼女は慌ただしく部屋を出て行った。


 そこへ——。


「一志ぃ、あの女どうにかしてよ」


 おどろおどろしく低い声で僕の部屋を覗き込んでくるのは、二番目の姉、のどかである。


 突然、美紅がやって来たので俄然がぜん機嫌が悪い。今まで僕と母とこの姉との三人家族だったから、美紅は異物なのだろう。


「どうにかできるんならどうにかしてるよ」


 僕が言い返すと、のどか姉ちゃんはツカツカと部屋に入って来て僕の頭をベシッと一撃した。


「何すんだよ!」


「あんたが連れて来たんでしょ⁈」


「勝手に来たんだよ!」


 言い返すと再びスパンッと後頭部への一撃を喰らう。


「不気味だからどうにかして!」


 いてて……。


 姉ちゃんが不気味というのは美紅の二重人格の事だ。美紅はもう一つの人格を持っていて、そちらの方は大人しくて可愛らしい女の子だ。名前を美羽みうという。


 ただ人格が切り替わるのなら、そこまで不気味がらないだろうけど、美紅と美羽の変化は見た目にも及んでいる。


 まるっきり見た目が変わるのだ。


 亜麻色のツインテールからサイドに細い三つ編みを垂らした浅葱あさぎ色の髪に変わるのだから不思議としか言いようがない。


 僕は姉ちゃんから逃げるように台所へ向かった。




 つづく

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