第40話 そりゃあ出会ってすぐの男に惚れるわけないけどさ


 ぺたぺたと自分のほほを撫でると、安心して僕は大きなため息をついた。


 どうやら『一志かずし』が引っ込んで、僕に戻ったらしい。


「一志、あれは一体、誰なのだ?」


 其角きかくさんの質問に、僕はぶんぶんと首を振るしかない。


「わかんないよー!」




 僕と一緒に雪牙丸せつがまるの身体を大地に埋めると、美羽みうはどこからか取ってきた野の花をそこに供えた。


 目を閉じて俯き、何かつぶやいている。


「別れを告げているのだろう」


「そうですね」


 僕と其角さんは少し離れた所でその姿を見守っている。


 生き残った三人の覚えている所をつなぎ合わせると、僕の中の『一志』は

雪牙丸の事も美紅の事も知っているということ、何故かはわからないが雪牙丸を抑えるくらい強かったこと——そのくらいのことがわかった。


 いや、ほとんどわからないじゃないか。


「だが、其方そなたと同じ匂いを感じた」


「匂い?」


「心の感触と言ってもいい。あれはやはり其方そなたなのだろう」


 其角さんは難しげなことを言って微笑んだ。隣で美羽もうんうんと頷いている。


「……まあ、いいや」


 たぶん、アレが僕だとしても、きっと雪牙丸と戦うために来てくれたんだろう。鬼がいる世界なんだからそんな事もあるだろうさ。


「これから、どうするの?」


 其角さんと美羽に問うと、其角さんは僕に手を差し伸べた。


「とりあえず其方を送っていこう。その後は——この時代の何処どこかで隠れ住むかな」


「美羽は?」


「私? 私は——」


 浅葱あさぎ色の髪を揺らしながら、美羽はちら、と視線を其角さんに走らせた。


 ま、そうだろうなぁ。


 其角さんへの想いが無ければ、何年もの間、彼を支え続けることなんてできないだろうしね。


 ちょっと寂しい気もするけど、ここでお別れのようだ。


 僕は『鬼丸』を其角さんにずいと差し出した。


「持って行って——ください」


「しかし、これは君の刀だ」


 僕はその言葉に首を振る。


「この『鬼丸』には其角さんの角が入ってない。いつかきっと『鬼丸』は其角さんの手を離れて、僕の家に伝わる刀になるんだ」


「……そうか。では連れて行こう」


 僕らは三人で手を取り合う。


 少し気恥ずかしいけど、僕の手を二人が握ってくれた。美羽は空いている手で其角さんを支える。


「行くぞ!」


 其角さんのその言葉共に、僕らは





 つづく

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