第29話 変化

 片腕を落とされのたうち回る雪牙丸せつがまるかたなを向けたまま、其角きかくを連れて美紅みくのそばに行く。彼は美紅がぶら下げている雪牙丸の腕をちらりと見やると、ぶっきらぼうにつぶやいた。


『その腕を捨てるなよ』


「……無論」


 切り落とした雪牙丸の腕には別の鬼——誰かのツノが紋様の如く埋め込まれていた。


 この角を取り込めば、その者は角の能力を操ることができる。


 逆に角ごと腕を失った雪牙丸はその分能力が無くなったと言える。


 ——があっ!


 ひと声吠えると、雪牙丸は斬られた方の肩を押さえながら飛び上がった。


 身を引き裂く激痛と、片腕をもがれた屈辱とが、再び彼を獣へと変貌させる。


 ——バチッ!


 空気が裂ける音が響き、雪牙丸は青い稲妻を纏って目掛けて舞い降りる。持てる力を全て、憎らしいこの小僧にぶつけるのだ。


 しかしその《一志》を庇うように、両手を広げた少女が立ちはだかった。鬼姫から浅葱色の髪の毛の少女に変貌した——美羽みうだ。


「兄上!」


 ——もう、やめて。


 誰もが傷ついたこの戦いを、終わりにして。


 そう願った美羽の叫びは、雪牙丸の遠い遠い記憶を呼び覚ましたのだった。




 つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る