第27話 今一度、あきらめない二人

 不敵ふてきに目を光らせ、雪牙丸せつがまるはぱっと振り向き様に跳躍した。着地点には其角きかくさんがいる。


 其角さんが驚愕の表情で瞬間移動をするのが見えた。が、その距離はわずか1メートル。


 腕を伸ばした雪牙丸がついに其角さんの襟首を捕らえた。


「其角さん!」


 僕の叫びを背に受けながら美紅みくが跳んだ。雪牙丸を取り押さえようと真上から襲いかかるが、奴は其角さんを盾にしてニヤリと笑う。


「む!」


 悔しげに声を洩らすと、美紅は軌道を無理矢理変えて斜めに堕ちる。堕ちた先で長い脚を振り回して低い位置から蹴りを放つ。


 しかしそれより先に其角さんを引っ掴んだ雪牙丸が飛び退すさる。美紅の蹴りは空振りに終わり、顔を上げた彼女はすぐさまそちらへ警戒の眼を向けた。


「ア、ハ、ハ、ハ、ハ……! ツカマエタ……!!」


 突然、雪牙丸が笑い声を上げる。それまで彼の人としての言葉を聞いたことが無かった僕は驚いた。


 それは美紅も同じだっらしく、眼を見開いて後ずさる。僕は美紅のそばまで駆け寄った。


 近くで見る雪牙丸は整った顔を天に向けてまだ哄笑を上げ続けていた。其角さんは真っ青な表情で宙を見つめているばかりだ。


 僕はそこでこの戦いの雌雄しゆうが決してしまったことを悟る。


 奴は其角さんを殺してツノを手に入れ、この結界を抜ける気だ。そして既にこの島の地中深く別の時間ときから来た『其角さんの角』が埋められているから、僕と美紅は抜け出せない。


 ——最悪だ。



 だけどその刹那、僕と美紅は同じ事を思ったらしい。


 二人揃って前へ踏み出し、美紅は跳ね上がり、僕は構えていた刀を走りながら抜く。


 ——あきらめるな!


 再び僕の身体に何かが宿ったかの様に、僕の身体は滑らかに動く。だけどだんだんと意識が薄れて行く。しっかりしろ、僕!


 大地においては僕の放つ横殴りの斬撃。


 空からは美紅の振り下ろす爪の斬撃。


 哄笑し続ける雪牙丸に向かって二筋の光が流れる。


 一つは人の、今一つは鬼の刃だ。


 そう思った時——、僕は何かに閉じ込められるような閉塞感を味わい、さっきの『俺』と入れ替わったのを感じた……。




 つづく

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