第25話 それは一体誰なのか

一志かずし!!」


 鬼姫・美紅みくが僕の名を呼んでいるのが聞こえた。けれど僕は目の前で起こっている事に理解が追いつかず、ただ渾身こんしんの力を込めて刀を——『鬼丸おにまる』を握りしめていた。


 僕は、なぜかはわからないけど刀を引き抜いて雪牙丸せつがまるの攻撃を防いだのだ。だが力が拮抗きっこのうして、引くに引けない状態だ。


 ガッチリと組み合った僕の刀と、奴の蒼牙は金属が触れ合う様にカチカチと音を立て、お互いの押し返す力の大きさを物語る。


 だけど——。


 僕にこんな力があったなんて!


 だいたいこんなに自然に刀を抜けるなんて思いもしなかったし、化け物の様な雪牙丸の攻撃を防ぎ、押さえつけることが出来るとは、自分でも驚き!


 もしかしてこれが時空転移の時に付与された能力なんじゃないのか?


 ところが、浮かれた僕の口から思いもしない言葉が出た。


ひさしいな、雪牙丸』


「……⁈」


 雪牙丸の瞳が見開かれる。僕もまた、自分の発した言葉に驚いていた。


 そして僕は自分の身体が僕の意志とは関係なしに動いている事に気がついた。



『雪牙丸、退け。この二人は俺が連れて行く』


 その言葉が通じたのか、それとも苛立いらだったのか、雪牙丸はひときわ大きくほええると、力任せに僕を押し返してぱっと離れて距離を取る。


 獣の様な唸り声が雪牙丸の喉から洩れる。僕じゃないは雪牙丸に向けて話し続ける。


『お前は自分の一族を滅ぼし、救い手たる鬼達までも滅ぼした。その罪はこの閉じられた島で独りつぐなうがいい』


 誰……?


 誰だかわからない『俺』は僕の身体を使って話している様だった。


 その時、雪牙丸が咆哮とともに全身から槍のような光弾を放つ。


 僕に向かっていっせいに襲いかかるそれを、『俺』はいとも簡単に刀で受けて弾き飛ばした。


『鬼丸』を持つ右手が一瞬のうちに自在に動き、右目左肩右腕みぞおち脚——全身を狙って飛んで来た光弾を、その青いやいばで一つ一つ打ち払い弾いたのだ。


 ——すっげー!!


 しかし雪牙丸は思い通りにならない苛立ちからか、獣じみた目で睨んでくる。


 わなわなと震える鋼の爪が、彼の怒りと恐れとを表していた。僕の中の誰かは更に言い放った。


『去れ。俺はお前をここで斬りたくはない』





 つづく

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