第22話 一難去って、また一難!



 襲いかかる雪牙丸せつがまるに飛び蹴りを喰らわせたのは美紅みくだった。僕の脳天を掠めて雪牙丸と美紅はすっ飛んでいく。


「美……!」


 美紅、と名前を呼ぶ前に其角きかくさんは僕ごと逆方向へ『飛んで』距離を取る。耳元に聞こえる息遣いで其角さんの息が上がって来ているのがわかった。


能力ちから』を使い過ぎたのだ。


「其角さん?」


「……身を、隠そう……」


 僕はすぐにそばの茂みに滑り込んだ。手にしていた『鬼丸』が枝や岩にぶつかったが気にしている暇はない。


 そういえばなんでコイツは急に喋らなくなったのだろう?


 其角さんに会うまでは僕に話しかけていたのに。


 僕が刀に目をやったのをみて、其角さんが何か感じたらしく、「どうした? 」と聞いて来た。僕は其角さんを手頃な岩の上にゆっくりと下ろしなごら答えた。


「なんで全然喋らなくなったんだろうって。僕はこの刀に連れられてここに来たのに」


「……恐らく、同じ角を持つ私に会ったからだ。それに中の角を取り出した。今はただの刀になっている」


 そうか。

 鬼の角が入っていたから不思議な力を持った刀だったんだ。


「……其角さん、この後どうすれば——?」


 其角さんの『能力』を使えば、この時代から移動できる。だけどその為に美羽を——美紅も——置いていくわけにはいかない。


「美紅殿と合流しなくては。この島に置いていくのは雪牙丸だけだ」


 だけど雷撃と爪牙の飛び交う二人の戦いに僕らが入っていけるだろうか。チャンスがあるなら其角さんが僕を連れて瞬間移動して彼女と共に時空間移動をするしかない。


「だけど……」


 僕はすぐそばでぶつかり合う剣戟けんげきの響きにも似た美紅と雪牙丸の戦う衝撃音に身をすくめた。これに割って入って美紅を連れ去る——。


 それはあまりにも無謀な作戦に思えた。


「あの二人は……どっちが強いんですか?」


「わからん」


「ええー?」


「雪牙丸は力を追い求めるだけの悪鬼と化したが、実妹たる『美羽』は認識している。それ故に彼女は無事なのだ」


 そしてそれだからこそ、美羽が庇う其角さんも生き残れたのだと彼は語った。




 つづく

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