第18話 其角さんの回想 5

 其角きかくは目の前が真っ暗になった。


 全くもって雪牙丸せつがまるの行いが理解出来ない。何故なぜ同胞を殺さねばならないのだ。ツノの力を奪う為? いやそれでも角を取り出せばいい。


殺す必要はない。


 どのくらい自失していたのか、気がつくとだいぶ陽が傾いていた。


「すまぬ、美羽みう。時間を取らせたな」


「別に、なんて事ありません」


 にこりと微笑む美羽に、其角ははっとして問いただす。この少女の身こそ危ういのではないか。なんといっても最強の『鬼姫』の角を腕に埋め込んでいるのだから。


「私は……多分大丈夫」


「何故そう言い切れる?」


「——私は雪牙丸の





「ええっ!!」


 僕は目の前の美羽を見た。美羽は目をらす事なく僕を見返す。きっと芯の強い子なんだろう。そうでなければこの島の鬼と人とを殆ど滅ぼした雪牙丸の身内ということを受け止められない。


「あの、そのなんといって良いか……」


「気にしないで、一志かずし。それよりも、私は其角様が心配なの。こんな傷を負ってしまって……」


 美羽はそのくりくりと大きな瞳で其角さんを見た。それはそうだろう。半身を失う程の怪我だ。詳しく聞けば、数日前、雪牙丸に見つかった其角さんは辛くも逃げ切ったが、代わりに大怪我を負い、この洞窟にかろうじて隠れたのだという。


「このままでは私の命が危うい。私が死んでもこの結界は生き続けるが、この力を込めた角が奴に渡れば——結界は消える」


「僕は、どうすれば……?」


 はっきりいってアレと戦うなんて無理だ。見ただけでわかるやつだ。


「その刀だ」


 其角さんは僕が握りしめている『鬼丸おにまる』を指差した。




 つづく

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