第17話 其角さんの回想 4
しかしその沈黙は美紅には通じたようだ。美紅は其角の背を「バン!」と強く叩くと「案ずるな」と笑った。
今度は
「
美紅の言葉に
「この中の誰が美紅殿を
「雪牙丸の
「待て待て、勝手に決めるな」
『人』の軍勢が
美紅だけが彼の方を振り返り、口を開いた。
「結界を張り続けよ、其角。
「……ええ、わかりました」
——御約束しましょう。その代わり、
美紅は其角から渡された小さな御守り袋を見せびらかすように細い指にかけてくるくると回すと、キュッと握りしめて高々とそれを
鬼姫は、戻らなかった。
他の誰も——。
其角は己の能力を使って姿を隠し、戦場に忍び込んだ。空間を歪めて身を隠すのだ。凄惨な戦いの跡地で、其角は北辰、
しかし——。
どこに隠されたのか、美紅の亡骸は見つからなかった。それこそ鬼姫の身体を汚されまいと血眼になって島中の戦場を駆け巡ったのだが、彼女の遺体は行方が知れなかった。
ただ、彼女の死は確実である。
なぜなら、鬼姫が
その赤ん坊の名は、
それから幾年かが過ぎ、同じ年月だけ逃げ続けた其角は美羽と出会う。美羽は他の人間と違って、鬼を——其角を襲わなかった。
そしてあろうことか、其角に向かってこう言った。
「私の中に、鬼姫がおります」
そこからは美羽と連携した鬼ごっこだった。とにかく人の手から逃げる、逃げる、逃げる。そのうちに人間達はお互いに争い始めた。
「
「其角様が結界を張り続けているから。其角様の結界は、私達には破れない」
人間達はこの島に閉じ込められたままであった。抜け出すには結界を作る其角を倒すかその力を奪う事。それが叶わない為、人々はその苛立ちをお互いにぶつけ始めていた。
「……ついに争う人同士が角を奪い始めました」
美羽の言葉に其角は目を
「しかし……角を取り出したからといっても死ぬわけではないだろう?」
其角の質問に、美羽は悲しげに首を振った。
「殺して、奪ってる」
つづく
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