第13話 やっぱりアイツは恐ろしい奴


 僕は自分の家の蔵からここまで来た話と、『鬼丸おにまる』が話をする刀である事を伝えた。


「信じられんが、やはりその刀に使われているのは、私のツノなのだな。そうか——」


 其角きかくさんは感慨深げに目を閉じた。心配したのか、美羽みうが声をかけた。


「其角様?」


「大丈夫だ。いつか私の角が外界で刀に封じられ、一志かずしをここに連れてくると思うと嬉しくてね」


 其角さんはまぶたを開くと、また僕を見た。


「君は私達の道標どうひょうだ」





「意味がわかんないんだけど」


「そうだろうね。何処どこから話そうか……」


「この島の鬼達が、人間と争って敗れたってのは聞いた——聞きました」


 僕の言葉に、彼はうなずいた。


「そうか。それでは美羽の手の甲に鬼の角が埋められている話は?」


「ええ、まあ。その角を持っていた鬼と同じ能力が使えるとか」


「そうだよ。そして角を取られた鬼は死ぬ」


 今度は僕がうなずいた。そこまでは美羽から聞いていたからだ。


「その角を執拗に集めた若者がいる。名を雪牙丸せつがまると言う」


 その名前を聞いた時、瞬時に空から舞い降りた青年を思い出した。濃い浅葱色あさぎいろの髪の毛の——。


「逢ったのか。そう、奴が力を求めて鬼狩りをした急先鋒だ。そして数多あまたの鬼を狩り、角を奪い、あまつさえ——」


 其角は眉をしかめた。僕はごくりと喉を鳴らす。


「——角を手にしたからもそれを奪い始めたのだ」




 彼の話によると、雪牙丸は手に入れた鬼の能力に飽き足らず、一緒に鬼を狩った仲間からも角を奪ったのだと言う。


「拒む者、立ち向かう者、全て雪牙丸に殺された」


「……でも、なんだってそんなに力を欲しがるんですかね? 他の人が持つのが嫌だったのかな」


「いや、そうではない。鬼は一人一人持ち得る力が違うのだ」


 話を聞くと、美羽(美紅)のように空を飛ぶ者、雷撃を使える者、他にも隠行の術に長ける者、風を操る者、剛力、眼力、先読み——さまざまな鬼がいたらしい。


「つまり、雪牙丸は全部の能力を欲しくなったわけか」


「もちろん親子などで同一の能力を持つ者もいる。しかしどの鬼がどんな能力を持っているのか、そとの者にはわからなかったのだ」


 だから手当たり次第に狩ったというのか。僕は背筋に冷たいものを感じながら、恐る恐る口を開いた。


「その……鬼の人達って、何人くらいいたんですか?」


 其角はすっと目を細めると、「二百人ほどだ」と答えた。


「小さな島の小さな村だ。平和な村だったんだよ——」




 つづく

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