第12話 鬼というものは

 青年が洞穴の壁に寄りかかって座っていると思っていたのだけど、違った。


 彼には下半身がのだ。


 もっと言えば、手頃な岩の上に載せられている状態であり、着物のあまり部分から推測するに、腹から下が無いようであった。


「これ……」


 動揺して、僕の視線は美羽みうと青年の間を行ったり来たりする。


 美羽は無言でうなずいた。


「だだだ、だってこんな岩だらけの場所に、こんな大怪我した人を置いておくなんて……!」


「私は鬼だ。これくらいの怪我では死なない。それに少しずつ再生している」


 僕の耳に響くその声は、その半身を失った青年から発せられていた。僕は勢いよく振り向くと、彼の顔を見る。


 その端正な顔の真上——前髪のすぐ上くらいに象牙にも似た、けれど宝石のようにも見える白銀のツノがあった。


「わ……」


 驚いている僕の横で、美羽は彼を紹介してくれる。


「この人が其角きかく様。この島最後の鬼。——其角様……この人は一志。美紅みくが其角様に会わせるようにって」


「彼女が……?」


 其角——と呼ばれた鬼は、美紅に似た金色の瞳を僕に向けた。僕は美紅が言った言葉を覚えていたから、手にしていたおにまるをずいっと彼の目の前に差し出した。


 其角の目が見開かれ、幽鬼の如き青白い顔に赤みが差す。


「馬鹿な……! 何故なぜ、私の角がそこにある⁈」


 彼は思わずといった様子で、右腕を伸ばしてきた。着物のへこんだ感じから、どうやら左腕も欠損しているらしい。


 僕も彼に『鬼丸』を渡そうと更に近づけたその時——。


 バチィッ!!


 電気が走った。


「痛ッ!!」


 弾かれる衝撃。そして稲光に似た青い光が洞窟内を明るく照らした。


 光は一瞬で消える。


 其角さんも弾かれた自分の手を見つめていた。


「……同じ場所に同時に存在するわけが無いはずだが……」


 そう呟くと、僕の方を真っ直ぐに見た。


「君がここに来た経緯を教えてくれないか?」




 つづく

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