第10話 そんな過去があったなんて

 岩場を選んで歩きながら、美羽みうはこの島のルーツを話始めた。


 その昔——そもそも僕の時代より八百年も前なのだが——この島は各地から追われて来た鬼達の住処すみかであったという。


「鬼って、あれかい? ツノの生えている?」


「そうよ。ツノもあるし、さまざまな力を持っていたの。それでも人間の数の多さには対抗し切れず、この島につどったのね」


 鬼達はこの島に人間が立ち入れぬように結界を張り、時折、人のふりをして物々交換に島を出る以外は島に閉じこもっていたという。


「——ところがある日、いくさに敗れた平家へいけの一族が近海に流れ着いたらしいの」


「らしいってのは?」


「私はまだ生まれてなかったから。母様かあさまから聞いた話なの」


 落人おちうど達を哀れに思った鬼達はつい結界を解いてしまった。都落ちして来た彼らを助けたのだ。


「初めは、人も鬼もうまくやっていたそうよ。追われたもの同士、肩を寄せ合い協力して暮らしていたって。だけど」


 だけどそのうち、その隠れ住む事に不満を持つ者が現れ始めた。外へ出たい。我等われらを討ち滅ぼそうとする奴らに目に物見せてくれようぞ、と。


「ダメな展開だね」


「そうでしょう? それも鬼の力を使って復讐しようと持ちかけたの」


「自分達でやれば良いのにな」


「……そうなの。自分達でやればいいのに、彼らは無理やり鬼の力を手に入れようとした」


 ひとりの少年が、年若い鬼のツノを切り落としたのだ。そしてその角を身体に埋め込むと——。


「その鬼の能力を使う事ができたの。それがコレ」


 美羽は細いしなやかな指をひらりと返して手の甲を僕に見せた。


 白い手の甲には薄紫ががった宝石のような、水晶のような細長いカケラが三つ、紋様のように埋められていた。


「反対側も」


 美羽は両手の甲を見せてくれた。


「足にもあるの。手の角は大きな爪で敵を引き裂く力と雷の力を。足に埋められた力は空を飛ぶ為のもの」


 悲しそうに美羽は呟いた。


「子どもの時に埋められたの。こんな力、欲しくなかった。人の命を犠牲にする力なんて——」


「犠牲にするって……もしかして」


 美羽は唇を震わせながらうなずいた。


ツノを取られた鬼は死んでしまうの」





 つづく

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