第9話 いやー、かわいいかわいい!

 鬼姫・美紅みくから突然かわいい女の子に変化したので、僕はどきどきして何を話したら良いのかわからなくなる。


一志かずし


 イメージ通りの少しおっとりとしたかわいい声で名前を呼ばれたのだが、僕はなんだかぼうっとなってしまって返事が遅れた。


「あ、はい?」


「私は美羽みう。美紅から聞いてる?」


「名前だけ」


 美羽は——なんと髪型まで違っている。鬼姫のツインテールではなく、髪を下ろして、サイドに細い三つ編みが飾りのように編んである。その細い三つ編みをもてあそびながら、「もう!」と愛らしい不満の声を洩らした。


「それだけしか教えてないなんて」


「いや、なんだっけ……君が本体だと言ってた」


「それは……まあ、そうなんだけど」


 つまり、あれかな。


「二重人格」


「?」


 小首をかしげる美羽は小動物みたいに愛らしい。いや、そうじゃなくて、どうやら意味がわからないらしい。


「君の心に別の人格があるってこと?」


 僕がそう言うと、美羽は首を振った。


「たぶん、少し違う。美紅も本当なら


「?」


 今度はこっちが首をかしげる番だ。あれかな。双子が片方だけ生まれてくるやつ?


「それよりも、一志の事が知りたい」


 ええ? なんでも聞いて!


「どうやってここへ来たの? この島は閉じられているのに」


 僕は手にしていた刀『鬼丸』の事を説明した。


「美紅は『其角きかく』の力が宿っているって言ってた」


「ええ!? ——わかった。だから私と入れ替わったのね」


 どう言う事?


 僕がそう聞けば、美羽はかわいい眉をキリッとさせて、歩き出した。


「美紅は其角様に会ってくれないから。たぶんあなたを其角様に会わせろって事なんだと思う」


「其角って、人?」


「ううん、鬼よ」






 つづく

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