第3話 八百年前っていつですか?

『鬼丸』のいうところによれば、僕が彼の力を解放して時間と空間を飛んだのだという。


「ちょっと待て。元のところに戻れるんだろうな?」


『さて、どうであろうな?』


「おい、コラ」


 なけなしのすごみをきかせてみたが、どう考えても鬼の顔の方が怖い。


 その鬼の顔をしている刀の鍔は、とぼけた後に急に真面目な顔になって話を受け続けた。


『だがわしは意味のない場所へは飛ばぬ。ここは必ずお主にとっての意味のある場所であるはずだ』


「意味のある場所……」


 そう呟いてあたりを見回すが、ただ鬱蒼うっそうとしげる森が広がるばかりだ。わかるのは杉の木とかではなく、様々な種類の木が明るい若葉を芽吹かせて生えているということだ。


「里山か何か……かなぁ」


 とにかく一度も来た事がない場所であるのは間違いない。僕は片親で母一人に育てられた。その母は車の運転など出来ない人だったので、郊外の公園やハイキングに行った事が無い。


 せいぜい小学校の校外学習くらいだが、こんなどこを見渡しても緑の木々に埋め尽くされている場所には来た事が無い。


『来た事が無いのは当たり前だ。ここはお主のいた世界から八百年ほど前の時代だ』


「あ、そう。なるほど八百年前ね…………八百年前⁈」


 コイツは何を言い出すのだ⁈


 僕は刀をゆすった。あれだ、洒落シャレにならない事を言った奴の肩をガタガタ揺らすやつだ。


『わ、わ、わ、よせ! 目が回る』


「元の時代に戻せよ!」


『時が来たら戻るわい』


「いつだよそれは⁈」


『はてさていつかのう? すぐの時もあれば、何年もかかる事も……』


「冗談じゃないっ! 戻る、今すぐ戻るんだー!」





 つづく

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