第7話 ラプターの情勢
悪魔族は魔族で一番力を持つ一族である。
元々は神に仕える一族だったという話があるが、詳しいことは定かではない。
魔王のいる国、ラプターは悪魔族が治める魔族国家だ。
魔王が誕生する前は人間の国などの周辺国とも友好的で、国交も正常だった。
百数年前、ラプターに魔王が誕生した。それまで正常だった国王が突然魔王になり、暴虐の限りを尽くすようになった。
その後に生まれた第一王子も国王に影響されてか、人間の孤児院や村を滅ぼしたりしていたと聞いた。
ラプターは魔王の弟である宰相の計らいによりすぐに鎖国されたが、だからとはいえ魔王は力を蓄えて人間を憎む魔族を集め、世界を滅ぼす準備に入ったという。
魔王の力は強大で、最後には神子の浄化が必ず必要だ。
魔王を組み伏せ、戦闘不能にできる勇者と魔王を浄化し、完全な
そもそも神子が生まれることで魔王がそろそろ現れるだろうと予測をつけることができたのに、それも神子が生まれなかったせいで出来なかったのだ。
当時の人間や亜人たち、友好派の魔族たちは協力して魔王を神子が生まれるまで封印する方法を考え、一旦は封印したのだ。
それが最近封印に綻びが生まれ、ラプターはまた魔王の統治下になってしまった。
力こそ正義である魔族の国では一番強い魔王に従うしかないのだ。
特に悪魔族であるが故に史上最悪だ。
魔王の封印が解けたのは三十年前、その後にも三人の王子が生まれ、魔王は王子を中心に戦力を固めようとしている。
魔王の側にいる宰相が上手くして魔王が周辺国に攻め込むのを遅らせてくれているらしいが、それもそろそろ限界、という時に
「神子の降臨がラプター側に漏れるのは避けねばなりません。ラプターの宰相殿はこちら側ではありますが、王子たちや他の魔族がどうかはあまりはっきりしないのです」
宰相殿には伝えるべきなのですがね…とため息を吐いた彼女は今日から俺の教育係になった美女だった。
今日は今の情勢と神子の役割について教えて貰っている。
ハルマ・ウィールズ。肩までの栗色のウェーブ髪に眼鏡の奥から覗く黄緑の目が綺麗な美女で優しい雰囲気の割に話し方はきぱきぱしている。
この国の国教であるセラフィーム教の一番大きな教会の女司祭、つまり偉い人なのだ。
そんな彼女が俺の先生なのは俺が神子だからで、信心深い故に一番神子を傷つけることがないと思われる人物だかららしい。それにハルマさんは元は侯爵令嬢で、マナーなど貴族的なことにも詳しい。
丁寧に情勢について教えてくれるハルマさんが本の文を指差している白くて綺麗な指先をじっと見つめる。
ちなみにハルマさんも白魔法使いで超強いらしい。全然見えない。
向かい合わせで座っているが綺麗だしいい匂いがするしドキドキする。
いかんいかん、集中しなくては。
「あ、え、えっと、そ、その宰相さんってどうにか会う方法は無いんですか?」
どきどきしすぎで吃ってしまった。このコミュ障め!本当になんとかしないといけない。
ハルマさんはそっと首を横に振った。
「宰相殿が魔王の側を離れれば何が起きるか分かりませんわ。故に彼の方は常に魔王の側に控えております。魔王が復活した今となれば味方なのは確実でも会って会話となればなかなか難しいですわね」
むむ、そうなのか。それにしても魔族には性別がないとは聞いたけど宰相さんってどんな見た目なんだろうか。エッチなお姉さんみたいな想像をしてしまう。
「宰相殿ひとりでは全てをカバーしきれません。彼の方も味方は居るでしょうが、こちらでは分かりませんし……」
とりあえずこんな俺でもまずい状況だってことは分かった。魔王怖すぎる。
あと暴れているらしい第一王子も気になる。
「第一王子は?」
「第一王子はあちこち飛び回っていてなかなか動向が掴めません。ラプターとの境界近くにある孤児院を跡形もなく燃やし、隣国の亜人の国の辺境の村を大人を皆殺しにして滅ぼしました。その後もあちこちで問題を起こしていますが場所はバラバラで神出鬼没ですわ」
マジモンの快楽殺人鬼で狂った奴じゃん。絶対エンカウントしたくない。
魔王は悪意に蝕まれているにしても第一王子は完全なるサイコパスだ。
「第一王子も馬鹿ではないので証拠もはっきり残しませんし、国の中枢には手出ししませんからここに来ることはありませんよ」
そのハルマさんの言葉に俺はホッと胸を撫で下ろした。
村を滅ぼすような強い悪魔に来られたら俺なんかポキッと首を折られておしまいになりそう。
「み、味方になってくれそうな魔族は他にいないの…?」
「情勢が悪くなったころに国外に逃がされた魔王のもう一人の弟くらいでしょうか。ただこちらも消息が分からなくて捜索中ですわ」
悪魔族って放浪癖でもあんのかな!!!??
「ちなみに一番の問題は勇者が存在しないことですわ。魔王を封印した勇者は死んでしまいましたし、今は生まれておりませんの」
「エッ…?大問題では……????」
ハルマさんはですわね、と言いつつニッコリと笑っている。
俺だけでなんとかしろということか?そんなん死んでしまう。
冷や汗をかいていると、ハルマさんが優しく俺の頭をぽんぽんして微笑んだ。
「勇者がいないぶんはわたくし達皆で協力してなんとか致します。神子様は何も心配しないでください」
「えっ、は、はい……」
思わずドキッと……、ってこれヒーローがヒロインにするやつでは!???なんでドキッとしてんだよ、俺馬鹿なの!???だって顔が良いからさ!!!!!
は、はい…じゃねえんだわっ!!!!!
泣きたい。
「魔族も今の状態を望んでいるわけではありません。何とか隣国に逃げ込む魔族もおります。…まあ、そのぶん人間嫌いなら魔族や亜人がラプターに集まり余計ならず者国家化しておりますが…」
まともな人が抜けてやばい奴が入って行っているってことね。
そんな中で未だに魔王の側にいて魔王の暴走を抑えようと頑張っているラプターの宰相さんの苦労を思うと涙が出てくる。
無事に全部終わったら美味しいもの食べて幸せに暮らして欲しい。
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