第58話 (最終話)平和な夏の日。

8月のある日、板橋 京子は仕事の昼休みに公園でスマホを見ていた。

暑いが裏世界の日々からすれば耐えられる。逆にエアコンの寒さが苦手になっていたくらいだった。

穏やかな日々は取り戻したが、コルポファの日々を知ってしまうと刺激もなく、息が詰まる穏やかな日々にうんざりとしていた。

スマホの画面はメッセージアプリが起動していて、グループ名コルポファの中にはたくさんの写真が入っている。昼休み、昼食後にオフィスに戻る気になれない板橋 京子はこうして公園でギリギリまでコルポファグループの写真を見ている。


〇三ノ輪 彦一郎が撮った、自費で個展を開いた上野 桜子に花を差し入れる千代田 晴輝の写真。

〇町屋 梅子と早稲田 七海が撮った、遊園地でナンパに勤しみ玉砕した豊島 一樹と大塚 直人の隠し撮り写真。

〇沖ノ島 重三が撮った、谷塚 龍之介が沖ノ島 重三の両親が作ったちゃんこ鍋とどんぶり飯に目を白黒させている写真。

〇谷塚 龍之介が撮った、沖ノ島 重三が何故か谷塚 龍之介の母と谷塚のアルバムを見ながら酒を飲んでいる写真。

〇自衛官から貰った、神隠し事件の被害者達の合同慰霊祭に出かけた時の写真。

〇玉ノ井 勇太と岬が撮った、桔梗が習字で金賞を取った時の写真。

〇梶原 祐一と桜が撮った、勝利の運動会で選手宣誓をした写真。

〇自衛官が撮った、セオ、ワオ、プリンツァが一緒に写る写真と戦場 闘一郎、岩山 巌、飯能 翠が3人で写る写真。

〇裏世界から送られてきた、真っ赤な髪のトーテッドと青い髪のデリーツが写っている写真。

〇裏世界から送られてきた、プラセがコルポマの兵士を治療している写真。

〇裏世界から送られてきた、エグスとフィーデンが変身セットで遊んでいる写真。

それ以外にも皆が何かある度に写真を送るようにしている。

そうやって生存報告をしている。

群馬 豪に関してはプリンツァの方がスマホに詳しくなっていて、シニアスマホを睨みつけていて、兄に笑われている群馬 豪の写真が届いた時には申し訳ないが笑ってしまった。


それらを見て懐かしんでいる時、玉ノ井 桔梗からメッセージが入った。

8月で夏休みなので子供達は夏を満喫している。


桔梗からのメッセージは[こんなまとめ見つけたよ]と書かれた後にはURLと[とても怖い異世界召喚の噂]と言うサイト名があった。



何処で情報を集めたのか、神隠し事件の事が詳細に書かれていた。

イニシャルトークにはなっていたが40年前の群馬 豪たちの話から大久保 勝之進の事まで書かれていて、多分だが政府が国民に向けて公開しない事、遺族たちにお見舞金と共に口外しない事をお願いした事に不満を持つ遺族の誰かが書いたのだろう。


コメント欄には記載内容を訝しむコメントやUFOを信じる人の反論コメントなんかから始まっていて、政府批判や帰還者達を誹謗中傷するコメントがついていてよく燃えていた。

炎上中という奴だった。

よく見ると現在進行形で返信がついていてリロードをすると[異世界召喚キタコレ!][オリも異世界で無双シタイス!][異世界美形騎士とロマンスムッハー!][異世界イケメン多そう]とか出てくる。


何を夢みたいなことを言っているんだと呆れながらリロードをすると[投稿者・シエロ やめた方がいいよ。現実は残酷だよ]と書かれていた。

恐らく小台 空だろう。なんとなく言葉の重みが違う。


小台 空のコメントで流れが変わって[確かに、これに書いてある通りなら400人近くが異世界に連れて行かれて帰っていたのは1割も居ないんだろ?]となると中には[自著伝売ってくれ]とか言う輩まで現れる。


そんな物は書けるわけがない。

あの異世界召喚はフィクションではない。

助け合っても死んでいった仲間達、生き残るために裏切ってきた京成学院の連中のせいで大田 楓の腕についた切り傷は消えずに残ってしまっている。


そしてまた話が変わって[そう言えば帰還者達って帰る為に異世界で取引したらしいぜ][なにそれ詳しく][毎月陸自の駐屯地で生贄を捧げてるんだってさ][異世界の奴らは退屈凌ぎに生贄を求めていて、生贄を渡さないと大災害が起きるんだって]と書かれた。


根も葉もない流言とも言えず、かと言って放置するのも悩まれる。

そんな中、リロードをすると新たな投稿があった。


[投稿者・帰郷 ちょっと不思議なお供え物だって聞いたよ?異世界の神様が欲しがっているのは大きなクマのぬいぐるみと縄跳びで、それをあげると素敵な思い出をくれるんだって]


その書き込みを見た瞬間、多分見ている皆が桔梗だと気付いて青くなっただろう。

玉ノ井 勇太と玉ノ井 岬は「桔梗!何やってんだよ!」「桔梗のバカ」と言って頭を抱えているだろう。


板橋 京子は休憩時間の終わりが近づいていて名残惜しい気持ちのまま…。なんとなく桔梗で終わらせたくなくて投稿をした。


[投稿者・イタコ 興味があるなら駐屯地に忍び込んでみれば?案外異世界に行けるかもよ?お土産持って行ってみれば?私はゴメンだけどね]


板橋 京子はそう投稿して仕事に戻った。


暑い公園。

焼ける日差し、喉がひりひりとする空気。


穏やかな日々、うんざりする平和。

万々歳じゃないか。


先程までと違い板橋京子はそう思っていた。

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