第56話 報告書。

隔離期間を終えた後、戦場 闘一郎達は群馬 豪とプリンツァを連れて山梨へと向かった。

神隠しの慰霊碑の前で彫られている仲間達の名前を見て涙を流しながら「すまない、私だけ生きて帰還してしまった」と謝った後、生家へと行く。


祖父母に見えたのは父母で、父に見えたのは兄だった。

家族は40年ぶりに若い姿のままの群馬 豪を見て泣いて喜び、ここまで支えてくれたと言ってプリンツァを紹介すると「我々は共に生きられない、先に死ぬ身、良ければ豪を助けてやってほしい」と言われてプリンツァは「ここに来られた意味をようやく見つけました。頑張ります」と言った。



報告書

報告者:戦場闘一郎2等陸曹。


神隠し事件、以後は「コルポファ転移事件」とする。

帰還者は戦場、岩山、飯能、コルポファの住人を含め32名。


裏世界と呼ばれる異世界の神エグス(提出資料参照)の原動力として各種条件付けを行う事で該当する箇所の人間を強制的に呼び出していた。

裏世界での聴取により馬などの神隠しにも裏世界の関与が認められ、裏世界では馬が移動手段となっていた。

主食は小麦を用いたパンやナンに近い。

香辛料や果実などもエグスが持ち込んでいて地球に近い。

エグスの力で持ち込めるものは生物に限定され、電子回路は全て破壊されていた。


裏世界からの召喚はエグスを捕らえていたコルポファの策略であった。

エグスは元々は流浪の神。

一つどころにいる事なく、対の神フィーデンを求め流れる神だがエグスの加護を受けたコルポファの民はその加護を使い、エグスがコルポファを離れられないようにしていた。


その為にエグスは一定周期で不満などの負の感情が高まるとスタークと呼ばれる怪物(提出資料参照)を生み出し、それらと戦う為に彼らの言い方であれば表世界からの転移を行なっていた。


コルポファの姫リーブスは誤情報を渡し、生存者を含めた転移者達を騙していた。

それはエグスの呼ぶ力は生物を殺さないが送る力は生物を殺してしまう事にあった。


エグスが満足する事をフェルタイと呼ばれていて、各コルポファ転移事件の被害学校から1人ずつ勇者と呼ばれる存在に祭り上げられ、フェルタイの為にエグスの居るユータレスへの突入を強要される。

ユータレスの中は時間の流れが違っていて生存者 小台 空、そして40年前の生存者 群馬 豪、両名の外見から察せられるように時間経過は通常と異なっていた。


二度のフェルタイを成し遂げた群馬 豪の助力によりエグスをコルポファから救出する事に無事成功し、コルポマを目指す。

コルポマの地には対の神フィーデンが祀られていてフィーデンの力で我々は帰還を果たすこととなった。


書き上げた報告書を見て戦場 闘一郎は「ふむ。やはり書類作成は苦手だ。ここに俺の撮った写真と翠の持ち込んだカメラで撮った写真を添えて報告書は終わりだな」と書類に向かって独り言を言っていると岩山 巌が現れて「お疲れさん、こっちも作ったから目を通してくれ」と言って別の報告書を渡してくる。


岩山 巌は「こっちこそお前さんの方が良いと思うんだけどな」と言うと戦場 闘一郎は「勘弁してください。そんなこと言ったら岩山さんに頼める報告書がなくなってしまいます」と言って肩を落とす。


「薬品装備戦力報告書は翠がやってくれたんだろ?」

「あれこそ翠向きです。まあ戦力は岩山さんでも良かったと思いますよ?」


「別に模擬戦した感想なんて「まあ強かったです」しか書けないって」

「…はぁ…」


戦場 闘一郎は岩山 巌の持ってきた書類に目を通す。

そこには帰還者達の現在と進路が書かれていた。


小台 空と群馬 豪は未成年での帰還なので自衛隊内で高校卒業までの勉強を行い、大学進学を願えば来年度の受験に挑戦、就職を願えば国で斡旋をする事になる。受験料などに関しては転移の被害者として全額免除となっている。補足:群馬 豪は実家の山梨から通いやすい基地でプリンツァと授業を受ける。


残りの者に関しては裏世界にいる間に最長で8年近く時間が過ぎていることもあり、当初の予定から変更をして大学卒業レベルまでの授業を行って各々の望んだ進路へつけるように最大限のフォローを行うこととなった。


谷塚 龍之介、沖ノ島 重三の戦闘力は目を見張るものがあったので自衛隊にスカウトをしたが谷塚 龍之介は三ノ輪 彦一郎の勧めで保育士を目指す事となり断られる。沖ノ島 重三は国ではなく市民を守りたいとして警察学校へと行くこととなった。

千代田 晴輝は手のリハビリ後、周りのサポートを得て設計面の力を活かした進路へと進む。



その他の者も最大限のサポートを受けて何とか日常に戻っていく。


その中でも監視対象になっているのは玉ノ井 桔梗、梶原 勝利両名である。

身体能力や学力は同年代の子供達と違いはないが、裏世界にてエグスとフィーデンより加護を授かった結果、常人にはない感覚を得ている。



そして報告書には極秘として書かれているのは、帰還後も定期的に第三基地の一室で物品が消える事件が起きている。

裏世界から来ているプリンツァ、セオ、ワオの3名には手紙を書いて貰い、約束の玩具と共に用意をしている。


裏世界の存在は一部の人間のみにしか知られていないので第三基地の怪談になってしまったがそれは致し方のないこととなった。

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