第55話 対面。

帰還の知らせを受けて三ノ輪 彦一郎の妻と娘は飛んでくる。

防護服越しに「あ、桃子さん、桃香ちゃん。ただいま。おじさんになっちゃったけど帰ってきたよ」という三ノ輪 彦一郎を見て泣きながら飛びついた妻と娘から三ノ輪 彦一郎は「年取ったの?格好良くなったわ。きっと今度の健康診断は健康体よ」「うん。パパはこっちのパパの方が格好いい」と言われてしまう。


コルポファの生活はスタークとの戦いと訓練の日々で運動不足なんてものは無くて早寝早起き、そしてセオとワオの食事は理想的で何年もその食事で過ごした三ノ輪 彦一郎は健康体になっていた。


千代田 晴輝はすぐに緊急手術を行ったところ、炭化した皮膚の下には何故か新たな皮膚が生まれていて炭化した皮膚の除去と簡単な処置でリハビリに勤しめば多少の引っかかりはあるが日常生活くらいなら問題なく送れるようになる話だった。


その話を聞いて千代田 晴輝はひとつのことに気づいて上野 桜子に感謝をした。


「私?何もしてないよ?」

「ううん。エグスとフィーデンが上野さんの絵を喜んでいて、沖ノ島君が勝手に僕が上野さんの彼氏だって言ったら「桜子と仲良くできるように願ってあげる」と言って腕を撫でてくれたんだ。痛かったけどアレかな?って思ったんだ。上野さんのおかげ、ありがとう」


千代田 晴輝の感謝に上野 桜子は赤くなって「え?それなら私の絵が役立ってくれて嬉しいけど…」と言うと千代田 晴輝は「上野さんの絵はやっぱり凄いね。僕は応援してるからね!」と言った。


「あのね…。応援ならひとつ頼んでもいいかな?」

「何?」


「1人で絵を描きに行くと怖い男の人達に絡まれるの。1人?とか聞かれて、絵を見せてとか色々言われるから行きにくいの…。だからついてきてもらってもいいかな?でも集中しちゃうと話半分になって嫌な思いをさせちゃうかも」

「行くよ!任せてよ!」


千代田 晴輝がそう言えたのには理由があって三ノ輪 彦一郎から帰還して身動きが取れるようになったら手を尽くすから青春を謳歌するようにと言われていたからだった。

この千代田 晴輝と上野桜子の話に三ノ輪 彦一郎は燃え上がって妻には半分呆れられつつも惚れ直されていて、代わりに娘は「パパ、お仕事ばっかり」と言われていた。


今回は1週間の隔離の後に防護服ではなく、10日の隔離後に千代田 晴輝、沖ノ島 重三、谷塚 龍之介と小台 空の保護者がやってきた。


千代田 晴輝の両親は皆が千代田 晴輝の身にあった事を知っているとは思っていないので殺気立つ中を訝しみながら来たが、1番驚いたのは千代田 晴輝自身だった。

母はしばらく見ない間に化粧気も何もなくなり元の専業主婦に戻っていた。


それは千代田 晴輝が上野 桜子に代筆を頼んだ手紙を読んで祖母にプラスして千代田 晴輝の介護もあり得ることに対して、不満を口にした母に父がいい加減にしろと怒った事で夫婦仲の危機を迎え、峠を何個も乗り越えた結果今の形に落ち着いていた。


それでも油断できない千代田 晴輝は両親に「僕は一度死んだ身だからこれからは友達と出かける。勉強が追いつかなければ塾にも行きたい。婆ちゃんの世話は僕がやれる範囲でしかやらない。母さんが先にできないと言って僕に押し付けるのはやめてくれ」とハッキリと言うと父親は「今まで本当にすまなかった。お前の言う通りだ。甘えてしまっていた」と謝った。


そして三ノ輪 彦一郎が前に出て「ご両親、僕は学校こそ違いますが今日まで息子さんの担任をさせて貰いました三ノ輪 彦一郎です。これからも力を合わせて助け合っていきましょう。まずは行政を頼って支援を見つけて全員にとってのプラスを探しましょう」と言った。


沖ノ島 重三は親子仲が良く、両親も沖ノ島 重三の帰還を心から喜ぶ。そんな中、「父さん、母さん、ちょっと待って」と言うと桔梗と勝利を呼んで「俺の友達」と紹介した後に「龍之介」と言って谷塚 龍之介を呼ぶと「こっちは心の友の谷塚 龍之介、向こうで仲良くなったんだ。今度ウチに呼んでいいよね?」と言うと父は「おお!息子の心の友よ!君は背が高いね!だが少し痩せ気味だね。専用の茶碗を用意しておくからお腹を空かせて来てくれよ!」と言って、その場でスケジュール帳を出して谷塚 龍之介にいつ泊まりにくるかを聞き始めていた。


谷塚 龍之介は思わぬ勢いに「おい!?重三!!」と助けを求めるが沖ノ島 重三は「どうした?約束したじゃないか、泊まりに来るし泊まりがけの旅行だって行くんだろ?」と言って助けようとしない。


「…お前!こうなるのわかってやがったな!」

恨み言を言う谷塚 龍之介に沖ノ島 重三は「母さんのちゃんこ鍋は美味いから楽しみにしておいてくれ」と言って笑った。



そんな谷塚 龍之介の母は疲れ切ったシングルマザーで谷塚 龍之介を見て嬉しさに泣いていたが「おばさん、安心してください、谷塚には心の友の俺や、この2人が居ます!皆も居ます!」と言って沖ノ島 重三が自身をグイグイ売り込むと「ありがとう。友達が居なくて心配だったから嬉しいわ。龍、お友達を大事にしなさいよ」と言われた。


小台 空の父母は典型的なダメ親だった。

父は理想のみを息子に押し付ける厳しい人で、母は甘やかすだけ甘やかしていた。


両親の言葉にどんどん顔を曇らせていく小台 空にワオが「空さん、ハッキリ意見を言って平気ですよ!空さんはワオを助けてくれるんじゃないんですか?裏世界を救った勇者ですよね?」と声をかけると小台 空は両親に「理想ではなく僕を見てください。僕は何とか皆に迷惑をかけながらも帰ってきました。僕の傷ついた心を1番わかってくれたのは三ノ輪先生とワオさんです。お礼を言ってください」と言った。


小台の母はお礼の最中も聞きもしない事を口にしたが、都度小台 空が「妄言はやめて」と言ってハッキリと否定をして行き、父は必要以上に小台 空を下げてしまう口振りだったがワオに言い返される。余程嬉しかったのだろう。最後には小台 空の顔は晴れ晴れとしていた。

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