第54話 残された者の1年。

ひとまず落ち着いた戦場は第一陣が何故自衛隊基地に居るのかを確認して、報告もあるので上官を交えながらコルポマでの1年を話してくれた。


実際、エグスとフィーデンが再会した事で時間の流れはほぼ等しくなり、戦場達も一年を過ごすこととなっていた。


「あの日、皆の転移を見届けた俺はエグスとフィーデンを群馬豪とプリンツァ、ワオに任せて沖ノ島達の救出に向かった」


「まあ俺達は岩山さんと飯能さんに助けられていて、前線基地で戦場と合流したんだ」

そう返す沖ノ島 重三に豊島 一樹が「生き残ってくれて嬉しいけどよくスタークと戦って平気だったね」と言う。


「グジュグジュとガチガチは割と早めに倒せたんだけどブヨブヨの奴が倒せなくてな、まあそこは龍之介が機転を効かせてくれてな」

「龍之介?」

豊島 一樹が驚いて聞き返すと谷塚 龍之介が「重三、谷塚と呼べ」とツッコミを入れる。

これには大塚 直人が「重三?」と聞き返した。


沖ノ島 重三が「まあ俺は龍之介の三番目の友達だから名前で呼ぶんだ。龍之介の奴、一番目と二番目の友達である桔梗ちゃん達が表世界に帰れれば良いからってヒットアンドアウェイ作戦に切り替えて時間稼ぎをしてたんだ」と言うと谷塚 龍之介が「そこに馬車に乗った千代田達が来た」と言う。


板橋 京子が「それで皆でブヨブヨを倒したの?」と聞くと谷塚 龍之介は「飯能さんが一撃で吹き飛ばしてくれた」と言う。


一撃であのブヨブヨを吹き飛ばすという事に驚いた巣鴨 登が「え?」と聞き返すと戦場 闘一郎が「驚くだろうが翠は薬品のスペシャリストだ。スタークの特性、後は火薬なんかが持ち込めない事を伝えておいたから翠は沢山の薬品を持ち込んでくれていて敵を爆殺してくれた」と言った。


スラリとしたクールビューティーの飯能 翠を皆で見てしまうと飯能 翠は照れながら「…化学の授業は大事ですよ」と言い、これに大塚 直人が「うっす」と返事をする。


「それでコルポマに帰還をしてからがとにかく長かった。懲りずにコルポファの連中はエグスを求めて攻め込んできたが加護もない連中に加え、俺と岩山さんと翠が居れば何のことはない」

「俺が近接戦闘、翠は薬品、そして闘一郎はトラップのスペシャリストだからな」


「そうしてコルポファの兵を蹴散らしていた時、デリーツがコルポマに来た」


「は?デリーツ?」

「ああ、今やコルポファの王だ」


「え?」「は?」「なんで?」そんな疑問の声に三ノ輪 彦一郎が「戦場君、意地の悪い説明はダメですよ」と言って説明を代わる。


「脱出の日、エグスの前に出てきたデリーツさんはエグスと握手をしましたよね?その時にエグスがデリーツさんを祝福していました。

そしてユータレスに居た小台君はリーブス姫を剣で切りつけました。その怪我はとても深くて、その時はエグスの加護で最悪を免れていました。ですがあの寺院の防衛戦で彼らは加護を使い切った」


何を言いたいのか察した梶原 祐一が「じゃあ…」と相槌を打つと、三ノ輪 彦一郎が「ええ、リーブス姫の怪我は悪化をしてそのまま息絶えました。そしてコルポファのルールは髪色の青い者がトップに立つ。コルポファの加護が消失しても個人で祝福を受けたデリーツさんの髪は青いままだったのでそのままコルポファの王になりました」


付け加えるように戦場 闘一郎が「デリーツは和平や支援を求めにコルポマに来た。トーテッドはそれを受け入れてこれからは手を取り合う事になった」と言って、最後に群馬 豪が「まあ大まかな流れはこれで十分だな」と言った。


これに大塚 直人が「小台、お前勇者したんだな」と褒めると隅で小さくなっていた小台 空が「え…、いや…」と言う。


大塚 直人が「なんだ歯切れ悪いな」とツッコむと小台 空は更に小さくなってしまうが、ここでワオが「空さん、キチンとやった事は受け入れてください」と言うと小台は背筋を伸ばして「はい。わかりましたワオさん」と言った。


この時、第一陣の皆は「え?空さん?ワオさん?君達の1年に何があったの?」と思っていた。



この先はそれぞれがそれぞれから聞いた話を統合する。

コルポマに到着した面々は桔梗と勝利の帰還で落ち込んで、あわやスタークを生み出しそうなエグスとフィーデンを見て青くなる。

話を聞くとフィーデンも負の感情が溜まるとスタークを生み出すという事だった。


谷塚 龍之介がうまく話を逸らしている間に岩山 巌が持ち込んでいた玩具で機嫌を取って後は可能な限り遊びながら帰還の力を貯めてもらっていた。

だが予定の2ヶ月になるとフィーデンが「まだだ、うまく行かない」と言い出す。

後にこれは嘘だとわかるが、その中で三ノ輪 彦一郎は谷塚 龍之介、千代田 晴輝、小台 空の心の闇に向かい合う。


三ノ輪 彦一郎は表世界行きを悩むプリンツァにも手を差し伸べてひとつの願いをした。

「群馬君なのですが、帰還をしても彼はひとりぼっちなのです」

この言葉に「え?」と聞き返すプリンツァ、プリンツァは群馬 豪が孤独だとは思ってもみなかった。


「群馬君が召喚されてから表世界では40年が過ぎました。友人達も初老で、例えご両親が存命でももう老齢。文化風習も大きく変わり、彼は孤独です。もし良ければプリンツァさんも表世界に来て群馬君を支えて貰えませんか?」

これは群馬 豪だけではなくプリンツァの救いになる事を見越しての三ノ輪 彦一郎の発言で、プリンツァは群馬 豪と話す事で群馬 豪の不安とプリンツァ自身の不安を話し合って聞き合って最後には「良ければ表世界に来てくれないか?」「私もついて行って良いですか?」と言い合う仲になった。



谷塚 龍之介と沖ノ島 重三の仲に関しては沖ノ島 重三が谷塚 龍之介の話を聞いて、谷塚 龍之介の興味を引く形でグイグイ踏み込んだ後は法的な部分、大人の領分に関しては三ノ輪 彦一郎を頼り、三ノ輪 彦一郎の言葉に谷塚 龍之介は救われて、沖ノ島 重三に感謝を伝える。この時に沖ノ島 重三の提案は名前で呼び合おうというモノだった。谷塚 龍之介は照れながらもそれを受け入れる仲になった。


戦場 闘一郎達は余暇を使うと言って身体を鍛えながらトーテッド達と知識交換をする。

ここに三ノ輪 彦一郎が介入する必要は無く、全て流れに任せていた。


そんな中で問題だったのはワオと小台 空だった。

ワオ…、コルポファの亜人達は亜人という言葉から人の字まで奪われてしまっていて、万事に卑屈でどうしてもコルポマの人達と不協和音が起きてしまっていた。

これにはトーテッドも頭を抱えて居たが今更コルポファに返すわけにも行かなかった。


そして小台 空はデリーツから聞かされたリーブス姫の死から、自分がリーブス姫を殺してしまった事にショックを受けていた。

なので三ノ輪 彦一郎が「小台君、本来なら僕のクラスで生活する中で君の悩みを聞きたかったんです。表世界では話せない事もここでなら話せませんか?」と言って中学時代に荒川 大輝から虐められて揶揄われていた過去を聞き出して、リーブス姫といかがわしい仲になろうとした事、本当は女性が怖い事なんかを打ち明けさせた。


「成る程、観ていたアニメやゲームでは異世界に来ただけでありのままが受け入れられてモテていたから君は勇者と言われた事、それだけでリーブス姫と恋仲になれると思ったんですね?」

「僕…、気持ち悪いって言われたくないんです」


会話になっていないが三ノ輪 彦一郎はそれを咎める事なく受け止めて「それはわかります」と一度肯定をした後で「ですが逆の場合はどうでしょう?」と言った。


「表世界に裏世界から来た勇者がいて、その人は女性で小台君の好みではないのに君の事を好きだと言って勇者だから何をしても受け入れられると決めつけて迫ってきたら小台君は嬉しいですか?」

「…嫌です」


「そうですよね。そういう事ですよ。リーブス姫の事は結果として多くの人を助けることになったのですから気にしてはいけませんよ」


そう言っても小台 空は相変わらず暗くて、エグスからは「暗くてやな奴」と言われていた。

三ノ輪 彦一郎はそれならばと小台とワオ、双方に双方を任せてみることにした。


小台 空は卑屈で何でも受け入れるワオに対して今度はどうして良いかを悩み、ワオも小台 空に見える卑屈でも受け入れがたいポイントに対して三ノ輪 彦一郎は我慢をするのか言うのかを問いかけて、キチンと意思表示をしないと小台 空は引かない事と諦めない事、そして言う事が小台 空のためになる事を教えた。


小台 空はワオと共に居る事で卑屈さで隠された先のワオ自身の気持ちを知ろうとして、ワオはキチンと言うことが自信の為、小台 空の為になる事を実感して、それでも傷つきやすい人間がいる事と、誉めると喜ぶ小台を見て自信をつけて行っていた。


こうしてコルポマの暮らしがある程度形になった頃、フィーデンのスランプは嘘で皆を表世界に帰したくない気持ちの現れだったことに気づいて皆で説得を行ってなんとか表世界への帰還を果たした。

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