第52話 帰還。
あの神隠し事件から半年が過ぎた。
世間的には怒涛の内容で、初日の南北高校からすれば7日目には第一陣は帰還を果たした。
その前にも5日目に消えた京成学院はすぐにショートを含めた10名が戻ってきて死んでいた。
世間が余計な大騒ぎしてしまうことを恐れて、全員が目立つことを控えて曖昧な事を言っていて、東武学園からしたら7年の日々は確かにあったが何があったかは語らない事になる。
そして7年を証明するように成人してしまっていた全員と桔梗と勝利の存在が確かに7年を物語っていた。正直15歳で召喚されて22歳で戻ってきただけでも厄介な話で、そこで子供まで授かっていたとなると正論ばかりの大人たちが黙っていないだろう。
政府のアナウンスのみで当事者が何も語らない事で、さまざまな憶測が飛び交う中、帰還した皆の進路について国から提案があった。
専用の学校を自衛隊の敷地に用意をして高校卒業、平均的な大学合格レベルまでの学力を身につけて戸籍上は高校生だが実年齢に合った学力を身に着けて学校に行けるように取り計られた。
勝利はまだしも桔梗は来年から幼稚園に行けるように急ピッチで日本の一般常識なんかの教育を施される。
桔梗本人はコルポファ暮らしから解放されて外遊びが楽しくて仕方ないし、歌やボール投げ、あいうえおなんかを先生から楽しく教わっていて最近ようやく玉ノ井 勇太と草加 岬…(入籍をして玉ノ井 岬)の事をパパとママと呼んで似顔絵をプレゼントしていた。
その玉ノ井 勇太は日本の治療の甲斐があって健康な身体を取り戻して十分に動けるようになる。
セオは検査が続いたが、検査の結果は亜人種と言われても体の構造は人間とほぼ変わりなく、無事に日本で暮らせることとなった。子を授かれるかはセオが願った時に検査を受けることになっていて、とにかく実験動物のような、サンプル採取のような事はやめてもらった。
検査漬けで皆が心配をしたが、セオはコルポファの亜人達の扱いは劣悪だったので日本の暮らしにはいつも感謝をしている。
自衛隊の用意してくれた学校は3週間連続で寝泊まりをしながら通って、1週間帰省する変則的なもので3週間は皆が顔を合わせるのでコルポファの日々と大差はない。
皆が顔を突き合わせればやはり気になるのは第二陣の帰還であり半年が過ぎても何の気配もない。
そもそもフィーデンが力を貯めるのにかかる時間もあるが、裏世界と表世界の時間差がどうなっているかは誰にもわからない。もしかすると表世界の一年が裏世界の一日になっているかもしれない。
そして春、柔らかな日差しと穏やかな風…草木の緑と菜の花の黄色、桜の桃色の中、桔梗のと勝利の幼稚園入学が行われた。
同じ幼稚園に入れて万一コルポファの話なんかをされても困るし、2人で一緒に居て浮いてしまうと困るので、お互いの家から近い幼稚園にした。
結局、腫れ物に触るような感じだが、近所では召喚の被害者…帰還者だとバレでいて幼さの残る15歳の子供が成人して帰ってきていて、浮くまではいかないが奇異の目で見られたりはしていた。
入園式の帰り、フォーマルな出立ちの玉ノ井と草加に連れられた桔梗と梶原と宮ノ前に連れられた勝利が皆が勉強を受けている教室にやってきた。
桔梗は胸に大きな文字で「たまのい ききょう」と書かれた名札を付けて皆に挨拶をした後でセオを探して抱きつくと「私の名前だよ!読める?」と名札を見せる。
セオは今、主に一般教養と中学校卒業レベルの勉強をしているので「読めますよ!」と言って桔梗を抱っこして「それは制服ですね!似合ってて可愛いですね!」と言う。
勝利もヤキモチの顔でセオに抱きついて「僕の名札!」とやる。
皆が微笑ましい気持ちの中、突如部屋が光って次の瞬間には11人の人間が部屋の中心に居た。
桔梗と勝利が1番に気付いて「あ!うほっほー!」「ほっほー!」と呼びかける。
それは戦場 闘一郎達だった。
「戦場!」
「三ノ輪先生!」
「千代田君!」
「沖ノ島だ!」
「谷塚!」
「小台?」
「群馬さん!」
「プリンツァ!」
「ワオだ!」
「…後誰?」
皆が口々に帰還者達を見る中、戦場と名前も知らない2人、岩山 巌と飯能 翠は慌てて立ち上がると「時間がない!ここは何処だ!」と言う。
玉ノ井 勇太が「時間がない?何言ってんだ?」と話しかけるが戦場 闘一郎は「いいからお前達はここから出て…ここは学校か?兎に角廊下に出ていろ!」と言って全員を廊下に避難させる。そしてキョロキョロと誰かを探しながら「セオは…居た!紙とペンを用意して裏世界の文字を書いてくれ!桔梗と勝利!おお!大きくなったな!君達にしかできない頼みがある!頼む!」と言う。
岩山 巌と飯能 翠が戻って来て「闘一郎、ここは第三基地だな」「私達が15分で用意するからあなたは皆に事情を話しなさい」と言って再度駆けて行くと最初に出会った自衛官に「特別任務だ、時間勝負だから今すぐ行動をしろ!緊急事態なんだ!」と言っている。
今度は梶原 祐一が「な…何があったんだ?」と聞くと戦場 闘一郎が「待て、今話す」と言いながら上野 桜子の前に行って「上野さん!頼む、今から翠が写真を持ってくるから絵を描いてくれ!桔梗、勝利の両名はエグスとフィーデンに手紙だ!何でもいいから手紙を書いてくれ!セオ!裏世界の言葉で帰還から今日までの事を書くんだ!」と言った。
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