日本での暮らし。

第51話 日本での数日間。

あの日、気がついたら病院の2階に居た。

突然談話室に現れた25人を見て病院は大騒ぎになってすぐに神隠しの被害者だと名乗ると警察と自衛隊が来てくれた。

これがフィーデンが言ってくれていた桔梗ちゃんと勝利君が安心できる場所で、それが病院だった。

窓の外には獰猛高校が見えていて、地図を見せて貰うと病院は地図の直線上にあった。


運良く病院だった事で大塚君はすぐに緊急手術を受けて一命を取り留めた。


戦場さんの上司の人や警察の偉い人が事情聴取に来て私達のコルポファの日々を説明した。

そしてセオがいてくれた事で話は早かった。

セオは文字が読めないが会話が通じたおかげでコミュニケーションが取れた。


私達全員が皆セオを大切に扱ってほしいと言い、更に桔梗ちゃんと勝利君が懐いていた事で離す事は難しいという話になった。


無事に帰ってきた私達のことはニュースになった。だが自衛隊や警察が守ってくれて何の被害もない。




板橋京子はそう日記に書いた。

病院の2階はその場で隔離されていた。

理由はコルポファ、コルポマから未知のウイルスが来ていた場合を考えての事だった。


1週間、毎日検査検査でそれ以外は談話室に集まって皆で過ごしていた。セオは照明、トイレやテレビ、冷蔵庫に目を回していた。


1週間が過ぎて面会が許可されて防護服を着た家族が面会に来る。

家族以外では千代田 晴輝の両親は来なかったが三ノ輪 彦一郎の妻子、小台 空の両親、沖ノ島 重三の両親が来て、谷塚 龍之介は母親がきたがすぐに帰って行った。

5名の家族は戦場 闘一郎の報告時に生存が確認されていたメンバーで、脱出時に残ったメンバーの家族と小台 空の生存の可能性がある事を自衛官に伝えた所、連絡を貰って会いに来ていた。


だが、正直皆の事は最長で5年の付き合いがあるので話せるが小台 空の話はロクに出来ず、言えたのは「異世界の知識があると思われて勇者に選出されて魔物の出る土地に送られて行きました。40年前の神隠しの生存者、群馬 豪と力を合わせて魔物の出る土地からは生還しましたが、彼だけは1ヶ月も経っていなくて現実がわかっていないで向こうに残りました」だけだった。


それを自衛官に伝えて貰うと小台 空の母は泣きながら帰って行ったそうだった。


三ノ輪の妻には全員で会いたいと言い、談話室に来てもらって「先生は僕達を逃すために名乗り出てくれました」「でも戦場が救出作戦してるから待っててください!」と言うと三ノ輪の妻桃子は「ええ、主人から手紙を貰っていたから…覚悟はしています。あなた達が無事で私は良かったと思うわ」と言って泣いていた。

沖ノ島 重三の両親は気丈な人たちで大らかに「わはははは、うちの息子はそう簡単に死なないさ」「先に皆さんが帰ってこられて良かったわ」と言ってくれた。


5時間にわたる手術で一命を取り留めた大塚 直人は目覚めた時、横に居た両親に「ただいま」とだけ言ったと世話を名乗り出た豊島 一樹が言っていた。

そして更に1週間後、防護服が必要ないと判断された後で大塚 直人は自衛官に頼んで栄町 紗栄子の両親を呼んでもらった。


呼ばれた栄町 紗栄子の両親は栄町 紗栄子から聞いていたイメージとはかけ離れていた。栄町 紗栄子がイメージはゴリラと言っていた父親は確かにガタイはいいが、ゴリラではなく気のいいおじさんだった。

母親はイメージ以上のザ・オカンと言った感じで授業参観と商店街が似合うおばさんだった。


大塚 直人は本当は1人で会いたかったが医者や自衛官に止められてしまったので豊島 一樹を同席させて、異常が出たらすぐにナースコールを頼めるようにした。


大塚 直人は病室に入ってきた栄町 紗栄子の両親に向かって「こんな身体ですみません。本当は土下座したいんですけど色んな管とか機械がついてて…寝たままで許してください」とベッドの上で上体を起こして謝ると、引き出しから大切にしまっていた栄町 紗栄子の遺髪を取り出して「紗栄子さんの遺髪です。お渡しして謝りたかったんです」と言って泣いた。


震える手で遺髪を受け取った栄町 紗栄子の母親は泣き崩れて父親は「君は娘の彼氏かい?」と聞いてきた。


大塚 直人は情けない表情で首を横に振って「いえ、片思いです。片思いの奴からの遺髪なんて、すげー気持ち悪くてすみません。でもコルポファに飛ばされてからずっと紗栄子さんを守りたくて空元気振り撒いて頑張っていたんです」と言う。


栄町 紗栄子の父親が「ありがとう。娘を励ましてくれたんだね?」と聞くとまた首を横に振った大塚 直人は「いえ、僕の方が助けてもらってました。あの日々で投げ出さずにいられたのは紗栄子さんが居てくれたからです」とハッキリと言う。


そのまま言葉に詰まった大塚 直人は「でも…守れませんでした。すみませんでした!今日は殴られるつもりで来てもらったんです」と言って再び泣きながら頭を下げる。


「何人もが死んでしまった事故の中で生きて戻った君を誰が殴ると言うんだい?それに他の皆は遺品は貰えたが遺髪は無理だったんだ…。感謝してるよ。ありがとう」

「そうよ。その胸の傷も大変だったって聞いたわ。無理しないでね」


この言葉に大塚 直人は「ありがとうございます」と返事をした。


「良かったら何か思い出を話してくれないかな?」

「え…っと…、スターク…って魔物みたいなやつなんですけどそれが出てこないのが4週間に1回あって、一周目って呼んでいたんですけど、その時に2人で夜外に出て星を見ました。紗栄子さんも皆が落ち込む中で少しでも明るく振る舞ってくれていて、住んでいた家が高度成長期の団地みたいなところだったからレトロって喜んでみたり、星にしても違う世界なのに赤く見えたのを金星とか火星とか呼んでみて綺麗だって喜んでました」


「あの子らしい…」

「それで…、僕が帰ったら遊びに行こうってあまりにもしつこいから紗栄子さんは「もう、そんなにデート行きたいの?帰ったらね。水族館ならいいよ」って言ってくれたのに僕は舞い上がって遊園地がいいって拝み倒して「えぇ?遊園地って高いじゃん」って言ってたけど最後には「まあいいかな?いいよ。それで楽しかったら水族館にも行こうよ」って言ってくれました。紗栄子さんは高所恐怖症だったんですか?」


これに栄町 紗栄子の両親は笑うと「違うよ、あの子はけちん坊だったんだ」「高いはお金の話。多分あの子なら水族館から何処かでご飯を食べて1日使いたかったのよ」と言った。


勝手に栄町 紗栄子は高所恐怖症だと決め込んでいた大塚 直人は「え?お金?」と聞き返し、栄町 紗栄子の父は「ああ、お金の高いだね」と言って笑った。


「ええぇぇぇ…言ってくれれば出したのに…」

「ふふ。ありがとう大塚君。退院はいつくらいになるのかしら?」


「退院だけなら来月だろうって言われてます」

「そう、じゃあ一度ウチまで来てくれるかしら?」


「え?」

「迷惑でなければ形見分け…貰ってくれないかしら?」

「中学の卒業式の写真もあるから焼き増ししておくよ」


この言葉に大塚 直人はまた泣いて「絶対行きます」と言った。


最後に栄町 紗栄子の両親はこの場に居てずっと黙っている豊島 一樹を気にすると、豊島 一樹は「僕は向こうで大塚さんと仲良くなったんで、今はお世話係です!治ったら遊園地に行ってきます!」と言った。


玉ノ井 勇太と草加 岬の両親は毎日来て桔梗に祖父母だと教えている。

梶原 祐一と宮ノ前 桜の両親もこまめに来ては勝利と遊んでいる。


その桔梗と勝利の目はエグスとフィーデンの贈り物のおかげで日本に戻って来ても光に透かすと赤と青に見えていた。

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