第50話 帰還。
板橋 京子は決断の時が近い事を悟ってプリンツァにどうするかを聞きに行った時、プリンツァの変化に気づいた。
青みがかっていた髪色が完璧な金髪になっていた。
「プリンツァ、あなた髪の毛が…」
プリンツァは自分の髪を見てエグスに「エグス様、もしや加護が?」と聞く。
エグスはコルポファの方を見て「無駄遣いし過ぎた。多分豪達と戦った兵士達の加護に力を使いすぎたんだ」と言った。
加護が消えたからだろう。苦戦していたコルポマの兵士達は勢いを取り戻して一気に兵達を押し返した。
まだ懲りずに向かってくる兵士も居るのか戦場達は戻ってこない。
そんな時、胸に矢の刺さった大塚 直人を豊島 一樹が担いで入ってくる。
一番に気付いた板橋 京子が「大塚君!」と声をかけながら近づくと大塚 直人は「兵士達は…弱くなったから……、もう…安心だぜ…」と言った。
豊島 一樹に何があったかを聞くと真正面からではなく横から寺院を目指した兵士に気付いた大塚 直人と豊島 一樹が迎撃に向かい、苦し紛れに撃たれた矢に気付いていないコルポマの兵士を守った結果、胸に矢を受けたと言う。
すぐに寺院に居た看護師が来て傷を見るが看護師は首を横に振る。
それは助けようが無いと言う。
今できる事は傷口を抑えて出血を減らして少しでも長く生きさせる事だけだった。
戦場 闘一郎達と戻ってきたトーテッドが大塚 直人に向かって「なぜ無茶をした!」と声を荒げる。
「だって…俺たちが帰る為だって人の犠牲なんて嫌だろ?」
「それは我々裏世界の責任だ!」
「まあ……、いいって…、なあ…とりあえず…もう敵は退くだろ?」
「ああ、今は一時撤退した。恐らく体制を整えてもう一度攻め込んでくる」
青ざめた顔の大塚 直人を見てトーテッドが苛立ちながら質問に答える。
「なら……いいや……。豊島、力……入んねえから…悪いんだけど……胸ポケット……開けて…くんね?」
豊島 一樹は泣きながら胸ポケットを開けるとそこには茶色い髪の毛の束が入っていた。
豊島 一樹が何かを聞く前に大塚 直人が「それ…栄町の遺髪…。助けられなかった時に貰っておいた…、アイツのオヤジさんすごく怖くて、オフクロさんはすごくアイツが好きだったって言うから、持っていって殴られるつもりだった…、無理そうだから…豊島…頼まれてくれね?」と説明をした。
栄町 紗栄子はブヨブヨに殺されていた。
ブヨブヨの殺し方はあの巨体で押しつぶしてくる。
それによって死んだ栄町 紗栄子の遺体は無残だった。
だが大塚 直人は丁寧に遺体を拭きあげて遺髪を貰い埋葬をしていた。
豊島 一樹は泣きながら「何言ってんすか!大塚さん!一緒に帰って大塚さんが持って行くんですよ!」と声をかける。
「無理だって…」
「何言ってんすか!約束したじゃないですか!遊園地!ランドっすよ!ナンパですって!」
豊島 一樹と逃避行の中で話していた遊園地の話を聞いて大塚 直人が「はは…。遊園地な…」と呆れた声を出す。
「栄町がさ……。帰ったら…水族館なら行きたい……って…言ったのに………俺が…遊園地をねじ込んだんだ…よ……。アイツ……呆れながら……いいよって言ってくれたのに……守れなかったんだ……」
そう言って悔しそうに泣く大塚 直人に豊島 一樹が「帰りましょう!とにかく帰りましょうよ!」と声をかける。
「勿体無いって。俺を見捨てたらその分2回目の連中が早く帰れるかも知れないって」
「関係ありません!戦場さん!いいよね!大塚さんも帰しましょう!」
戦場 闘一郎は頷いて「当然だ。運を天に任せろ。もしかしたら向こうに俺の仲間が居れば助かるかも知れないぞ?」と言うと、梶原 祐一が「大塚、贅沢言いすぎなんだよ。死んでった奴らは皆死ぬなら向こうでって思っててこっちなんだ。それなのに向こうに行けるお前が遠慮すんな」と言う。
続けるように巣鴨 登が「そうだよ!皆で帰ろう!」と声をかけて、梅島 陸が「そうだよ大塚!お前の死体処理をトーテッドさんに押し付けんなよ!」と言い、玉ノ井 勇太が「お前の真似ならはい決定だからな」と言った。
大塚 直人は声を震わせて「…酷え」と言って泣いた。
ここでプリンツァが「セオ、表世界に行けますか?」とセオに聞く。
セオは「私ですか?良いのですか?」と聞き返して「ええ、あなたは天涯孤独の身、コルポファで虐げられてコルポマでやって行く自信がないのであれば表世界に行くべきです。今怪我をされた勇者様の止血や身の回りのお世話をしてください」と言われる。
セオは頷いて大塚 直人の胸を抑えながら「プリンツァ様は?」と聞く。
この問いにプリンツァが悩んでいると、プリンツァの気持ちを察した群馬 豪が「プリンツァ、すまないが私の補助を頼む。表世界行きは2回目までに決めてくれないか?」と言い、プリンツァは救われた顔で「はい」と言った。
フィーデンが前に出てきて「力は溜まったぞ。誰が帰る?」と聞く。
「残るのは俺と群馬豪、そしてプリンツァとワオだ。すまないがトーテッド、世話になる」
「ああ、遠慮なく居てくれ」
戦場 闘一郎は皆を見てからフィーデンとエグスを見て「すまない、フィーデン、エグス、この部屋に残る皆をよろしく頼む」と言う。
「わかった」
「任せろ」
皆が口々に「日本で待ってるから!」「絶対帰ってきてくれ!」「三ノ輪先生を頼む!」「千代田君をお願いします!」「怪我しないで!」「絶対に皆で再会しようね!!」と言っていると戦場 闘一郎達は手を振って部屋を後にする。
扉が閉じると同時に部屋の中央に光が生まれた。
それはあの日教室で見た光と同じだった。
部屋が光るとあっという間に板橋 京子達は光に飲まれていた。
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