第49話 贈り物。

板橋 京子は手持ち無沙汰になっていた。

帰り支度は早々に片付き、今はフィーデンの準備待ちになっている。

そのフィーデンだったが別に座り込んで集中しながら呪文を使うわけでもなく、初めに「エグス、見てて」と言って空を指さして「一番星の方角!」「高さはトーテッド5人くらい!」と言った後は「桔梗、勝利、フィーデンと手を繋いで」と言って手を繋ぐと「お前達が安心できる場所」と言った後は「後は高まるまで待つ!」と言っただけで後はエグスと桔梗と勝利と楽しく遊んでいる。


上野 桜子はクロッキー帳を取り出すと高速でペンを走らせていて話しかけられる雰囲気では無い。


そんな時、部屋の隅で今も困惑をしているセオとワオ、そしてプリンツァにどうするかを聞くことにした。


「私達も勇者様の表世界…」

「でもトーテッド様はコルポマでもいいって」

「…お婆様、私はどうするべきでしょう?」


口々に話す3人の話を聞いてみるとセオは日本も悪くないと思っていて、ワオは亜人のいるコルポマ、プリンツァはもっと別の何かに悩んでいた。


「プリンツァ?どうしたの?」

「いえ、表世界…お婆様は亡くなった勇者様と添い遂げたかったと言っていました」


「え?100年前の勇者とプリンツァのお婆さんは恋人同士だったの?」

「いえ、共にいられたのはわずかな時間なのでそんな仲ではありません。でもユータレスから戻られた勇者様が死んでも表世界に帰りたいと言った時、お婆様もお供をして死にたいと思ったそうです。ですが勇者様はお婆様にこの後に続く皆さんのために生き恥を晒してくれないかと頼まれました。お婆様はその願いを受けて加護を最低まで外されて生き恥を晒す中、何をしてでも生き残る事にして今日まで私達が皆さんを導けるようにしていました」


「お婆さんの意思なら表世界に行きたいの?」

「行きたい気持ちと、行かねばならない気持ち、そして私が行って何になるのかという気持ちが混ざり合っていて答えがわかりません。それに行けば帰る事は叶いません」


プリンツァの言っている意味は分かる。

自分たちが正にそうだ。

ある日突然裏世界に呼ばれて帰れない恐れがあった。

この世界でスタークと戦う勇者と言われてもやれる保証も自信も無かった。


別の部分で聞くことにする。

「プリンツァには家族は?」

「居ません。コルポファでこの加護では男性から求愛される事も見向きをされる事はありません。母も行きずりの…一晩だけの付き合いで私を授かりました。そして加護がない中、私を育てるために無理をしてしまい病気で亡くなりました。それでプラセ様とも付き合いがありました」


家族がもう居ない一人ぼっちであれば日本に連れて行くのもプリンツァの為になるのかもしれないと思った板橋 京子は「決めるのはプリンツァだけど、私は選べるプリンツァは幸せだと思う。私達はいきなりだったからさ、それで日本は平和な世界だから多分大丈夫。それは裏世界のプリンツァにはわからない事も多かったり大人の人達からあれこれ聞かれるかも知れないけど私達がいるよ」と言うとプリンツァは「…ありがとうございます。少し考えてみます」と言った。



この話をしている間も寺院の外からは怒号なんかが聞こえてくる。

確実に戦闘音が近付いてきている。

矢だろうか?寺院の外からカツカツと聞こえてくる。

そう言えば神の居る場所だからか。コルポマの人達は寺院をユータレスと呼んでいた。

そんな事を思いつつ、矢の音が激しくなってきていてフィーデンが準備を終えるまで保たないかも知れない。そう思った時、上野 桜子が「出来た!」と言ってエグスとフィーデンの前に行く。

「これ!」と言って手渡したのは勝利と桔梗と笑顔で遊ぶエグスとフィーデンの絵だった。


絵を見たエグスが目を輝かせて「桜子!これはエグスとフィーデンと桔梗と勝利か!?」と聞くと笑顔の上野 桜子は「はい!私達が帰っても寂しくないように描きました。鉛筆だから消えちゃうかも知れないけど貰ってください!」と言うとフィーデンも近づいてきてエグスに絵を見せて貰うと大喜びで2人して「桜子ありがとう!」と言う。

それは離れた所からチラリと絵が見えた板橋 京子からしても見事な絵だった。


ここでエグスがフィーデンにあるお願いをした。

「エグス?何?」

「エグスは桔梗と勝利にサヨナラのプレゼントをしたい!フィーデンも頼む」


2人の神は多くを語らずに言いたい事を理解しあっていて「うん!やろうエグス!」とフィーデンが言うと、フィーデンとエグスはそれぞれが桔梗と勝利と手を繋ぐ形で4人で輪になると「表世界は遠いから力を渡しても何も出来ないけど…」「沢山の幸せがくるようにする!」と言った。


そして手を離すと桔梗は右目が黒目だが光に透かすと青く見えて、左目が光に透かすと赤く見えた。勝利は右と左が逆だが同じだった。


「目を見るたびにエグスとフィーデンを思い出してくれ!」

「少しの時間だけど楽しかったよ!」

これに桔梗と勝利はよくわからない顔で谷塚に仕込まれたお別れの挨拶をして笑っている。


恐らくフィーデンの作業がもう終わるのだろう。

だからこそ別れの贈り物をされたと思った。

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