第45話 8回目の異世界召喚。

時刻にしてストルトが戦場 闘一郎達に会った頃、召喚の準備を終えた事でリーブス姫は召喚を行うべく、召喚の部屋を目指す。

傷口からは絶えず血が滲んでいたが傷の度合いから言えば信じられない事だった。


リーブス姫は召喚と同時にコルポマにエグスを取られる事を憂慮してコルポマまで大軍を派兵する事を決定する。「戦闘になっても加護が外れないように最低限の力は送り続けます。安心して戦いなさい」この言葉に髪色が絶対のコルポファでは誰も異論を唱えなかった。


後ろを歩く兵士に「あの変態勇者は?」と小台 空について確認をする。

兵士は「ご命令通り食事を与えてユータレスに放置してあります」と報告をする。


「食事はもう不要よ。これからは餓死させなさい。デリーツには餓死寸前…衰弱するまでに2人の説得をさせなさい」

姫は兵士に命令すると召喚の部屋に入り、貴重なエグスの力を使い新たなる人質を召喚した。


光と共に現れたのはひと組の男女。

男は筋骨隆々、女はスラリとした贅肉のない動きやすそうな身体をしている。

2人とも戦場 闘一郎が持ち込んだ物と同じ鞄を背負っていた。


戦場 闘一郎同様、気絶することなく現れた2人は「むぅ…。着いたな」「ええ、ここがコルポファね。目の前の女性が闘一郎の報告にあったリーブス姫ね」と言って状況確認をしている。


リーブス姫は他所行きの顔もせずに「ようこそコルポファへ、人質さん」と声をかける。

板橋 京子の手紙や戦場 闘一郎の報告でリーブス姫の二面性を知っていた2人は驚くことも泣く「おお、闘一郎も中々やるな」「ええ、でも状況がわからないから大人しくしておきましょう」と言っている。


想定外の状況に狼狽えるリーブス姫に「気にする必要はない。我々は人質なのだろう?」「どうするのかしら?牢屋?」と言うやりとりの後で自己紹介もなく屋敷に通される。



屋敷に居たデリーツは通された男女を見て頭を押さえて、三ノ輪と千代田は不思議そうな顔をする。


「済まない、闘一郎からの情報不足で、身体的特徴から察する所、千代田氏と三ノ輪教師で間違いないだろうか?私は岩山 巌、こちらは飯能 翠」

「飯能です。すみません、闘一郎の情報はおそらく変化しているはずです。それをください」


三ノ輪 彦一郎と千代田 晴輝は前回の報告から今日までの間にユータレスがフェルタイされてエグスが帰還した事、フェルタイを成し遂げたのが群馬 豪で、群馬 豪の話ではエグスの限界が近い事、それにより急遽脱出が決まった事、本来エグスが外に出るとユータレスが閉じて加護が消失するが勇者小台 空がユータレスにいる事でユータレスは閉じずに加護が残っている事、エグスが求める対の神フィーデンはコルポマにいる可能性がある事が伝えられる。


話を聞いて岩山 巌が「それで、なぜ2人は残った?」と確認をする。

三ノ輪 彦一郎は「外側の門は内側からしか閉じられません。皆を逃すまでの時間稼ぎに我々が名乗り出て閉じました」と説明をすると飯能 翠が「御英断に感謝します。そしてご安心ください。闘一郎は後続の我々に皆さんを託していたのです」と説明をする。


「え?じゃあ…」

「はい。皆さんを日本にお連れします」


「だが話の感じ、小台 空がネックだな。帰るか聞いて帰ると言えば連れ帰るか?」

「いや、任務は生存者の帰還ですよ、見捨てる訳にはいきません」


「帰りたくない奴は邪魔になるぞ?」

話の感じ、岩山 巌が望まない者を無理に連れ帰る必要は無いと言い、飯能 翠は任務であるからには無理矢理にでも小台 空を連れていこうとしている事が伺えた。


ここでデリーツが、遅れて現れたプラセに状況を説明する。

岩山 巌と飯能 翠は改めて2人にこれまでのことの礼を言う。


プラセは「いや、こちらこそ済まない。話の前に聞きたいことがある。医療には詳しいか?」と聞くと岩山 巌は「最低限でよければな」と言って飯能 翠を見る。


プラセは千代田 晴輝の右腕を指差して「コイツの腕、炭化しているが切れば血は出るし、痛みもある。表世界なら治るか?」と聞く。飯能 翠は腕に触れながら「…可能性はあります。万全とは行かずとも、日常で問題ないくらいであればかなりの希望があります」


この返事に驚きの表情で飯能 翠を見る千代田 晴輝。

視線に気付いた飯能 翠は優しい笑顔を向ける。


「なら治してやってくれ。デリーツは何かあるか?」

デリーツは小台 空が飢えに負けて戦場 闘一郎達の目的地をバラしてしまった事、既に追っ手が向かった事、そしてコルポマだけはマズいという理由から大軍が派兵された事、そして道なき道を北上するよりも東側から迂回した方のが道がある分先回りが出来る事を説明する。


「…まずいですね」

「戦闘もさることながら疲弊してコルポマに辿り着けるかだな?」


「ええ」と言って飯能 翠が頷き。

真剣な表情でどう動くかを考える岩山 巌と飯能 翠。


「ならば貴君らはどうする?」

「脱落者が出ている事が予測されます。北上ルートで闘一郎の所まで追いつきます」

「それしかあるまい。この世界に乗り物はあるか?」


デリーツから馬と荷車の存在を聞いた2人は行動に出る事にする。


「ふむ、とりあえず困るのは貴方方だな」

「我らを素直に逃がしたとなると罰せられますね」


「どうするつもりだ?」

「翠、やれるな?」

「勿論。これより催眠ガスを生み出します。それで昏倒して貰います」


それならとデリーツとプラセは食事を用意する為に一度城に戻り、モブヘイは催眠ガスて眠らされた事にする事が決まる。


「あの、結局小台君はどうしますか?」

「一度帰るか聞くしかありませんね?」

「ゴチャゴチャ吐かすようなら置いていくかな」


荷物の確認をして脱出の準備を済ませると三ノ輪 彦一郎と千代田 晴輝は「今までお世話になりました」「良くしてもらえて助かりました」と礼を言い、デリーツとプラセは「いや、こちらこそ召喚に付き合ってくれた事に感謝する」「本当、済まなかった」と返した。


デリーツとプラセは食事を取りに城に向かい、モブヘイはテーブルに突っ伏す形で眠りに着くと飯能 翠は鞄から液体を二種類取り出した。

それをコップに入れて混ぜるとすぐに白いガスが出てくる。


飯能 翠はガスを見て「問題ない。闘一郎の報告通りだわ」と呟き、三ノ輪 彦一郎が「戦場君の報告ですか?」と質問をする。


「闘一郎は醤油や調味料を持ち込んで料理をしたはずです。あれは単に皆さんを元気付ける為だけのモノではなく、味の変化なんかで液体や個体に発生する問題を確認していたんです」


この説明に久しぶりに白米を食べた日の事をおもいだしてしまう三ノ輪 彦一郎と千代田 晴輝はお腹がすいてしまった気がする。


「なんでか火薬はダメだったが、薬はある程度は効いたと言っていたしな」

「多分、密閉されていれば平気なのかも知れないけどリスクがあるから試せないわ」


ぼやく飯能 翠に岩山 巌が「だからこそ俺たちの出番だ」と言って笑った。

千代田 晴輝達は眠る姿勢のモブヘイに礼を言うと外に出る。作った睡眠ガスでユータレスの兵士を眠らせると中に居る小台 空に今が最後のチャンスだが逃げるか確認すると小台 空はゴチャゴチャと「でも」「だって」「どうせ帰っても」と言い出す。

苛立った千代田 晴輝が「10秒で選べよ!決めろ!」と怒鳴ると困惑した顔で「帰ってもいいけど笑われたくない」と言う。


苛立つ千代田 晴輝を制止した三ノ輪 彦一郎が「まずは帰りませんか?今を逃すと帰れません。君はここで生涯を閉じますか?」と優しく聞くと小台 空は諸々を諦めて「帰りたいです」と言った。


「翠、ここを千代田氏と見張れ、話通りユータレスが閉じると恐らくバレる。先に三ノ輪教師と馬車を確保してくる」

「了解。爆破の用意はしておきます」


この会話に千代田 晴輝が「爆破?火薬は…」と言うと飯能 翠は「ふふ、化学反応は可能よ」と言って鞄から新たな液体を取り出した。


馬車の確保はすぐに出来た。

「岩山さん…馬の餌も積みましょう」

「おお、ありましたか。助かります」


馬車をユータレスまで持って行くと今度は飯能 翠が千代田 晴輝を連れて北側の壁まで進む。

「ここを破壊して馬車の通り道を作ります。爆発音が合図で岩山達がここに来ます。周りを見ていてください」


飯能 翠は右手の薬品を壁に振りまくと、少し離れて同じ箇所に向けて左手の薬品を振りかける。

すると即座に爆発を起こして壁は吹き飛び、飯能 翠は渋い表情で「脆い壁、岩山に殴らせれば良かったわ」と言う。


「…え?」

「岩山 巌は格闘技のスペシャリストです。この程度の壁の一枚や二枚は余裕です」

話しているとすぐに馬車が到着し、荷台には小台 空と三ノ輪 彦一郎が乗っていた。


「ユータレスは?」

「寝かした兵士を突っ込んでおいたから当分はバレないな、行くぞ」

全員で馬車に乗り込むと北上を開始した。

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