第44話 戦場 闘一郎の策。
戦場 闘一郎達は息を整えているとすぐに異変に気付いた。
大塚 直人が「…なんか臭くね?」と言い、巣鴨 登が「スタークの臭い…」と言った。
ここでハッとなった豊島 一樹の「あ!ストルトの奴を襲ってたスターク!」と言った言葉に皆が慌てて立ち上がるが体力的に厳しい上野 桜子と怪我のせいで長時間の運動に対応できない玉ノ井 勇太が辛そうな顔をする。
玉ノ井 勇太はため息をつくと「…俺は置いてけ、それと上野さんだけは連れてけ。千代田の分まで…最後まで頼む」と言って逃げてきた方角を見る。
横に居た檜原 修が「バカ!玉ノ井!」と言うが玉ノ井 勇太は首を横に振る。
「俺は男でガタイもあるから足手まといだ。1匹でも多く蹴散らして1秒でも長く足止めするから安心しろって…」
この言葉に梶原 祐一が「お前!ふざけんなって!」と言って考え直させようとするが、玉ノ井 勇太は「ふざけてない。岬、桔梗の事頼むわ。もし辛かったらウチの親父なら金くらい出すから遠慮なく頼れ、それは手紙にも書いておいたから大丈夫だ。おせっかいのお袋なら顔を見にきてアレコレ構うから遠慮なく甘えとけ」と言いいながら桔梗の頭に手を置いて「桔梗、いい子でな」と言った瞬間、谷塚 龍之介が玉ノ井 勇太の胸ぐらを掴んで無理やり自分の方を向かせると思い切り頬を殴る。
「ふざけるな!お前は最後まで生きろ!」
「谷塚…」
「千代田と上野さんの事を持ち出したよな?だから言ってやる。俺がお前の代わりに足止めをするから逃げろ、俺の命の分まで、最後まで生き延びろよな」
「何でだよ谷塚!」
「俺は片親の親に育てられたから、人間の汚さをや色んなものを見てきたから人間が嫌いなんだよ。それなのにお前が俺の前で桔梗を片親にする?ふざけるな。だから俺が代わりに足止めするら最後まで生きろ!」
「お前…」
玉ノ井 勇太が何かを言う前に谷塚 龍之介が「戦場!玉ノ井任せたぞ!」と声を張る。
戦場 闘一郎が「いいのか?」と意思の確認をすると谷塚 龍之介は「上野さんや玉ノ井が居ると追いつかれる。俺はスタークを倒したら追いつくから安心しろ!」と言う。
戦場 闘一郎はその言葉に従って「…了解した。ここは任せる」と言うと「じゃあ俺も残るかな」と言って沖ノ島 重三が出てきた。
「沖ノ島?」
「桔梗ちゃんの友達減ると可哀想だからね」
「お前!沖ノ島は上野さん抱えろよ!」
「俺が残るんだから谷塚も桔梗ちゃんの為に生き残らないとな」
「…なんで」
「セオとワオが忙しい日とか目立たないように面倒見てただろ?」
「…お前」
「見てたんだよな」
沖ノ島 重三の話しぶりに谷塚 龍之介が「…ちっ」と舌打ちをすると、嬉しそうに「よし、決まった」と言った沖ノ島は桔梗に「桔梗ちゃん。おじさん2人はここで悪い奴やっつけてから行くからパパとママ、後はエグスをよろしくね」と言う。
桔梗は以前から沖ノ島 重三と交流があったのだろう。「うん!」と気持ちのいい返事をする。
桔梗の返事に笑顔になった沖ノ島 重三は「勝利もお利口でな!」と声をかけると勝利も「おー」と返事をした。
それを見た沖ノ島 重三は「谷塚?」と言う。
谷塚 龍之介は「……ちっ、見てたのかよ」と悪態をついた後で穏やかな顔になると「桔梗、行ってくるぞ。バイバイだ」と声をかけた。
桔梗は笑顔で「バイバーイ、うほっほー」と言い、谷塚 龍之介も「ああ、うほっほー」と返事をした。
目を丸くする大塚 直人が「え?何今の?」と聞くと谷塚 龍之介は「俺と桔梗達との挨拶だ」と答えた。
「勝利、うほっほー」
「ほっほー」
その時の谷塚龍之介の笑顔はとても人嫌いには見えなかった。
だがすぐに厳しい目になると「行け!ここは任せろ!」と言った。
皆が口々に感謝を告げて行く中、お辞儀をする上野 桜子に「千代田の分もあるんだから諦めずに生きろ」と言った。
皆を見送って背中を見た沖ノ島 重三が「もう少し優しい言い方すれば皆と仲良くできるぞ?」と言う。谷塚 龍之介は「無理だ。桔梗も今は心優しい子だがそれも小学校に入るまでだ。今がピークだ」と言った。
「酷い言い方だな。根拠は?」
「小学校に入るまでは父親がいなくても何とかなった。小学校に入ると見下された。散々休みに親と何があったか聞かれて自慢された」
「ロクでもない話だな」
「ああ、ロクでもない」
「お母さんは?」
「自分が大好きなキャバ嬢だ。子供の頃は相談しても全部俺が悪いと言って片付けた気になってた」
「それがずっとか?」
「小学校4年の時、母に出来た男が反社崩れでくだらない揶揄いなんかは無くなったが、今度は変な噂が回って浮いた。それにその男の影響で小学校4年なのに金髪にさせられた。東の京の板橋さんは学力で越境していたが俺はやり直したくて東武学園に行った」
この説明に頷いた沖ノ島 重三が「そうか。じゃあ帰ったら俺は友達三号の親友だ」と言った。
「何言ってんだ…三号?親友?」
「三号はお前の友達は桔梗ちゃんと勝利が一号と二号だからな。俺が三号で何でも話せる親友だ。俺の話聞きたいか?」
「別に」
「そうか、聞きたいか」
「言ってない」
「俺の父親は…重…」
「…」
「…」
「…」
「おい、続き言えよ」
苛立つ谷塚 龍之介に微笑んだ沖ノ島 重三は「まだ内緒だ。スタークを倒したら続きを話すから死ぬなよな」と言い、この態度に苛立ったままの谷塚 龍之介は「コイツ…」と悪態をついた。
少しして武器を構える沖ノ島 重三が「それにしても戦場が行かせるとはな」と言うと谷塚 龍之介は「アイツ帰りたいだけじゃないか?」と返す。
「そうか?なんか理由があるのかもしれないぞ?」
「知らないな。とりあえず見えてきたから倒すぞ」
「3匹全部か…グジュグジュ任せていいか?ガチガチは俺がやるよ」
「わかった」
そう言うと声をかけながら2人はスタークに向かって行った。
沖ノ島 重三の言葉通り、先行したメンバーの中では不協和音が鳴り響く。
玉ノ井 勇太に肩を貸す戦場 闘一郎は皆から冷血だの何だのと罵られていた。
玉ノ井 勇太は自身がこんな身体だからだと話したが皆は納得しない。
三ノ輪 彦一郎から言われていた梶原 祐一が止めに入っても皆納得しない。そんな中、群馬 豪が「戦場?何があるんだ?」と聞く。
ここで初めて戦場 闘一郎が口を開いて「姫が策にハマった。初動こそ運任せだが、想定通りなら生きている全員は助かる。だからこそ俺はとにかくコルポマに最短でエグスを届けて保護をしてもらう。そうしたら俺からも迎えに行く」
これに肩を借りている玉ノ井 勇太が「何をしたんだ?」と聞く。
「簡単だ。仮に召喚を行えば獰猛学園に配置した仲間が召喚される手筈になっている。位置と距離の計算が2回目の転移を試していないために怪しいが最低でも2人はコルポファにくる。元々仲間とはそう言う手筈になっている」
「マジか」
「ああ、その為に最初の1ヶ月はアレコレと試した。銃火器と火薬のプロが呼べないのが不服だったが、使えないとわかればどうとでもなる。我々は殺人は忌避しているが、対人制圧のプロも居る。ストルトの話が本当ならば姫が呼ぶ人質がコルポファを滅茶苦茶にしてくれてその混乱に乗じて千代田や三ノ輪教師を脱出させてくれる。俺は皆をコルポマまで送り届けたら谷塚と沖ノ島を助けながら途中まで迎えに行く」
この説明に皆が涙ながらに「なら言えよ」とツッコミが殺到したが「情報漏洩を恐れていた。だがここまで来れば漏洩の問題は無くなった。仮に来なければ俺はコルポファまで千代田と三ノ輪教師を救出に向かい、途中で谷塚龍之介と沖ノ島重三を救出する」と返す。
「先に女子供と負傷者を送り届けたかった。後はコルポマが信用でき得るかを自らの目で判断したい。可能であれば男性陣にはコルポマで女性陣を守ってほしい。そしてエグス、元の世界に帰るのを2回に分けて欲しいんだ」
エグスは機嫌よく「おう!いいぞ!フィーデンに頼むし、フィーデンと遊んでいればきっと貯まるのもすぐだ」と答えた。
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