第38話 姫として。

リーブス姫は数名の兵士と共にユータレスの前まで行く。

リーブス姫は三ノ輪 彦一郎と千代田 晴輝との会話で混乱をしていて追手を放つ事を考えられずにいた。


「加護が外れるなんてダメよ。認められない。コルポファは守られるべきよ」

うわ言のように繰り返しながらユータレスの中を見る。


三ノ輪 彦一郎達の話通りならエグスが居ないのに閉じないユータレス。

やはりその理由は中に残された勇者の存在なのだろう。


だがリーブス姫は生返事をした通り小台 空と言われても名前と顔は一致していない。

そもそも表世界の人間で名前と顔が一致しているのは大久保 勝之進と戦場 闘一郎だけで、今さっき話をした三ノ輪 彦一郎と千代田 晴輝も名前なんてしならい。


勇者に関して言えば、100年前の姫は貧弱な男を勇者として指名すると代わりに見かねた屈強な男が名乗りを挙げていたという記録を残していた。


リーブス姫も記録通りに行おうとしたところ、100年の時間で来る勇者も変化をしていた。

100年前の記録であれば裏世界、表世界と言っても狼狽える者たち、少しずつ情報を与えて態度を軟化させてからコルポファの状況を伝えて同情を引いてから勇者の選出を行なっていたが、何故か100年の時間で表世界の人間達は召喚というものを知っていて、裏世界と表世界の情報も容易に受け入れ、中には喜ぶ者が少なからず居た。


そして喜ぶ者達の中には気が弱そうな男が多かった。

気の弱い男を選んでありもしない勇者の儀式をでっち上げて共に沐浴をする。


数人の神官たちに結婚や祝辞で述べる祈りの言葉を述べさせて聖水を飲ませる。

そして「表世界の穢れを落としてくれ」と言って浴場に連れて行き沐浴をする。

肌が透ける布の服は沐浴ですぐに裸と変わらなくなる。

表世界の男共は筋肉なんて見当たらない貧相な身体だった。

そして気の弱い男達はリーブス姫の身体を凝視してきて生唾を飲んでいた。


本来であれば見られる事は気持ち悪かったがコルポファの姫として、コルポファの民を導く姫としてコルポファに身を捧げる気持ちで我慢をした。


演出に神官たちは心配をしたが気の弱い男達は襲いかかってくる事はなかった。

初めの男はそれだけで十分だったが2人目の男はそうもいかなかった。


だからこそもう一歩進んで抱きついて耳元で「コルポファを…私を助けてください」と囁いてみたら効果は絶大だった。


そして姫としてコルポファを守る立場として唇を重ねる所まではやった。3番目と4番目は抱きつく以上の効果があった。

だが3番目はそこで止まらずに迫ってきたから「それはユータレスを成し遂げてからです」と言ってユータレスに送り込んだ。


不思議な事に気の弱い男達はそれを経てしまえば聞き分けよく大人しくなり、以後は何もなく同衾をするだけで別人の表情でユータレスに乗り込んでいく。


すぐにわかったが見送りの仲間達の前で見つめあって抱き締めると男共は完璧に目の色を変えて喜んでユータレスに入っていった。


あの追い返した老人の発言は間違っていない。

白磁の貧相な剣と鎧で奴らの思っているフェルタイは成し遂げられない。

100年前のコルポファが言うフェルタイとはそもそもエグスを落ち着かせる事だと認識している。


勇者達はその為の生贄だ。

ユータレスで死んで命が力となり力が加護になる。

これは本当の話だが、裏世界の人間が何人犠牲になっても表世界の人間には敵わない。

だからこそ表世界から生贄達を召喚する必要がある。


今回の召喚は3年目で100年で尽きかけた力は何とか補充できた。後はフェルタイまでスタークと戦い続けてくれればそれで良かった。

それなのにまさかの100年前の勇者によるフェルタイとエグスの脱走。


ユータレスに着いて小台 空を待つ頃には幾分か冷静になれたリーブス姫は追走についても考えていた。

どうせコルポファの外は見晴らしのいい平原で逃げ場は限られている。それは追走すればいい。今はエグスが戻るまでなんとかユータレスが閉じないように勇者をこの場に釘づける必要がある。


そうしていると真っ赤なユータレスの奥から白い影が現れる。

それは確かに勇者だった。


あれは何番目だ?


リーブスは徹底して名前を覚える気はなかった。

昨晩食べた鶏肉を育てる亜達が仮に育てている時に名をつけていたとしても食卓に上がる時にその名前はない。

食べたパンの小麦に名前があってもリーブスにはパンでしかない。


それと同じ感覚で、どうせ戻らない生贄の名前なんてものは覚える価値も…耳に入れる価値もなかった。


だが勇者、小台 空は違っていた。


群馬 豪に殴られて昏倒した小台 空が目覚めるとユータレスの深部に1人取り残されていた。


再び迷宮化していたユータレスをしばらく進んでいると直通化し直したので出口を目指していた。

とにかくリーブス姫に会って真意を問いたい。


だが、その前に約束を果たす。


姫と男女の仲になって男になる。とにかく話はそれからだった。

なんとなく梶原 祐一や群馬 豪の話からコルポファから出た先の話も聞いている。


姫にはその事も用いて信頼を勝ち取ったらスムーズに性交渉に持ち込めるかもしれない。

そう思いながら見えてきた外には両端を兵士で固めたリーブス姫が待っていてくれた。


小台 空は「姫が自分を待っていてくれた」と心躍った。


やはり自分は間違っていなかった。


この瞬間に自分の全てが認められた気になった。

中学時代、これでもかと虐められた過去。

虐めてきていた荒川 大輝はこのコルポファで命を落とした。

その虐めた荒川 大輝と同じ日本の連中の言葉を無視した結果、目の前には潤んだ瞳で助けを求めて自ら情熱的に唇を当ててきた姫が居る。

キスの後、そのまま男女の仲になろうとした時、残念そうに我慢していた姫。

両想いだったが自身は勇者として、彼女は姫として立場を重んじて我慢をした。

だがフェルタイを成し遂げた自分なら姫に相応しい。


お待たせ姫!僕は6日の体感。

姫はもっと長い時間を待っていたという話だから謝らなければ。


小台 空はそう思いながら「姫!」と言って駆け出していた。

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