第39話 禁句。

リーブス姫は戦慄した。

まさか帰還した勇者が3番目の勇者だったとは夢にも思っていなかった。


3番目で気持ちの悪い思いをしたからこそ4番目はもう少しマシな男を選んだ。



そう。

リーブス姫の考えは正しく、そして間違っていた。


南北高校の勇者、四ツ谷 一輝は慣れ親しんだ作品の影響で異世界召喚に詳しかったが詳しいだけでフェルタイを成し遂げてクラスメイトを日本に帰したいと言う心意気の持ち主だった。


東武学園の勇者、鐘ヶ淵 匠は多少は姫とのラッキースケベな展開には期待したが、それは年相応の反応であった。だからこそ姫からの抱擁が意味を持っていた。

そして鐘ヶ淵 匠も姫とクラスメイト達の為に恐怖に負けずにユータレスの最新部へと進み犠牲になった。


だが、荒川さくら高校の勇者、小台 空に関しては完全な人選ミスで、小台 空の人間性もあるが、リーブス姫自身、枯渇と同時に出てきたスタークの対処に困窮し、初の召喚を試みた1年目、そしてエグスの力が潤い、対スターク戦に意識を向けるようになった2年目は真剣に勇者を選んでいた。

だが、3年目はエグスの力も間もなく満タンになり、後はフェルタイまでの消化試合でしか無かったことで気を抜いていた。


小台 空は今までの勇者達よりも召喚を喜んでいた。説得も容易いと思って選んだが、小台 空の知る異世界召喚は平凡な男子が、偶然召喚された異世界では何故か何の努力もなく無類の実力を発揮して、トラブルの全てを心のままに力で解決をする。そしてその横には赤青黄、ピンクや緑、水色に紫、色とりどりの髪色をした美しい女性達が常に誰かしらいて、彼女達はその平凡な男子に大した理由もなく恋をする。彼女達の熱烈なアプローチ、苦労もせずにYESと答えるだけで恋人にすることが出来る。そして平凡な男子は彼女達を好き勝手に入れ替わり立ち替わり陵辱出来るもので彼女達も喜んでそれを受け入れるし、何股をしても彼女達は平凡な男は魅力的だから仕方ないと受け入れていた。

小台 空は虐められている現実から逃げるように作品に没頭し、いつの日か自分も作品と同様に異世界に招かれる日が来ると日々夢見ていた。


だからこそ梶原 祐一が萎えたリーブス姫の真っ青な髪色にも過剰に反応をしてみせたし迫れば受け入れてもらえると思い込んでいた。


そして見ていた作品のせいで平凡な男子が何故か何の努力もなく無類の力を発揮する状況が自分にも当てはまると思い込んでいて何の事もなくユータレスに入って地獄を見た。

グジュグジュを相手にした時は「勇者だから」という思い込みだけで勝てたが、苦戦をした事で次第に不安になり、二匹目に向かってきたグジュグジュの消化液が腕について火傷をしてからは現実を意識してユータレスに入って1日のところで身を隠していて息を殺してどうするか悩んでいた。


そこに東の京高校の勇者、多摩 剛が果敢に攻め込んできて死んでしまった。

そしてそれをエグスから聞いて助けにきた群馬 豪に保護されて今に至っていた。



その小台 空が出口で待つリーブス姫に気付くと「姫!」と言って駆け出す。

リーブスは表情を硬らせて「ひっ!?」と言ってしまう。


「姫?僕ですよ。小台空です」

「え…ああ…、鎧が赤くなっていて新手のスタークかと思いました」


リーブスは最大限努力をして姫の表情を崩さずに小台 空の機嫌を損なわない回答を心がける。


「あはは、そうだったんですね。スタークはもう出ませんよ」

「それではエグスは外に…フェルタイを…」


「はい!なのでもう僕達の障壁は何もありませんよ!」

「は?何を仰って居るのですか?」

リーブス姫は本気で小台 空が何を言ったのか分からなかった。


「照れる必要はありません。フェルタイは成し遂げました。約束通り僕と姫は男女の仲になりましょう」

小台 空はストレートに言い出した。

それこそ前述した見て学んだ作品の主人公のように「来いよ」という顔で手を前に出した。

小台 空の中では顔を赤らめたリーブス姫が「ここでは恥ずかしいです。兵達も見ています」と言い、小台 空は「照れる事はありませんよ。姫は何年間も待ち望んでくれたんですよね?まだ我慢できるのですか?」と返す。

真っ赤に顔で俯いて「それ…は…、でも…」と言う姫の気持ちを察して小台 空が兵達に「察してあげてください。これからは僕と姫の時間です」と言って兵達を下げると屋外にも関わらず始まる性交渉。


だがリーブス姫は汚物を見る目で小台 空を見て「何を言っている?」と言った。

聞き間違いを疑った小台 空が「え?」と聞き返すと、苛立ちから高圧的になったリーブス姫が「今がどれだけの状況かわからないのでしょうけれど、フェルタイされてエグスがユータレスを離れた!このままでは私たちの加護が消えてしまうの、あなたは黙ってユータレスの中に居てください!」と言い放った。


この言葉が小台 空の耳に正確に届くのに数秒かかった。


ようやく意味がわかった小台 空は顔を歪めて「はぁ?」と言うがリーブス姫は小台 空を見る事なく「勇者をこのままユータレスに押さえつけなさい!追走隊を編成して逃亡者達を追いますよ!」と言って兵達に指示を出す。


「姫!」

「は?まだなにか?」


「エグスが向かうところなら僕知ってるよ!それがわかれば姫は僕と男女の仲になれますよね?」


はじめの言葉には興味を持ったが直後の気持ちの悪い言葉にリーブス姫は再び汚物を見るような顔で「穢らわしい。だれが貴方に体を許しますか!兵達!勇者を縛り上げてユータレスに入れなさい!」と言った。


棒を持って前に出た兵達だったが小台 空は目の色を変えて剣を抜く。


「あれれ?おかしいぞ?なんでだ?あれ?姫は僕が好きで男女の仲になるのにフェルタイが必要で、未熟な勇者と姫の仲が障壁で、フェルタイを成し遂げた僕は立派な勇者だから姫と愛し合えるのに?なんでだ?」


そのまま「あれ?あれ?」「あれあれあれ?」と言い出した小台 空は一気に前に出ると兵士を突き殺す。


別に小台空が弱いわけではない。

ユータレスの中では単騎でグジュグジュを倒して居る。

そして兵士達は未だに不血の誓いを優先して居る。

傷つける気…殺す気のない者と性交渉の為なら殺人すら厭わない者の差は歴然だった。


あっという間に1人の兵士を突き殺した小台を見て、もう1人の兵士は仲間を呼びに行く。


それは小台 空の確保の面からすれば正しいが、リーブス姫の保護の面では間違いで、一対一で向き合う形になったリーブスはとても正気とは思えない小台空の目と顔、それと兵士の血で塗れてもなお、鈍い光りを放つ剣に震えていた。


真っ青な顔で「あ…。な…なんて事を…」と言う姫を見ずに小台 空は「こ…これが正解ルートだったんだ、フラグ管理が難しいよ」と呟くとリーブス姫に向かって「邪魔者は片付けましたよ。さあこれで2人きりですね」と言って手を伸ばした。


何もかもが怖い。


ユータレスから臭ってくる悪臭を纏った小台 空が。

国の危機を話してもまだ性交渉を持ち掛けてくる小台 空が。

思い通りにいかないとなると抜刀をして兵士を殺したのに顔色一つ変えない小台 空が。

そしてまた性交渉を持ち掛けてきた小台 空が。


何もかもが気持ち悪い。

リーブス姫の心の中はいつか怖いから気持ち悪いに変わっていた。


「ひっ…!い…嫌よ!気持ち悪い!アンタ気持ち悪いのよ!」


この言葉は言ってはいけない最悪の言葉だった。

「アンタ気持ち悪いのよ!」

中学の時、目が合っただけで照れて頬を染めて「僕は…彼女とかまだ」とブツブツ言い出した小台 空を見てそう言った女子にいい格好をしたくて荒川 大輝は小台 空を虐めた。


一気に荒川 大輝に虐められた数年間を思い出して「ああああ!」と叫んだ小台 空はリーブス姫に剣を向けた。


そして激情のままに振り抜いた小台 空の剣はリーブス姫の脇腹を切った。

思わぬ激痛に崩れ落ちるリーブス姫を捕まえた小台 空は姫を引きずってユータレスの中に入ると姫の服を剣でビリビリに破き始めた。


数分後、完全武装をした兵士達がユータレスに着くと切られたショックで気絶をした姫の服を破き、下半身…局部を丸出しにした小台 空が姫の足を持ちながら「あるぇ?この先ってどうするんだろ?わかんない」と困っていた。


その場でボコボコにされて制圧された小台 空は手足を縛られてユータレスに放置された。



小台 空は殴られて制圧されて転がされているにも関わらず「異世界パワフルパラダイス。君だけのウキウキ☆ユートピア!!だとキスしてすぐ挿入シーンだったからわかんなかった…。きっと姫がリードするルートだったはずなのに姫ってば寝てるから…」とうわ言のように呟いていた。

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