第29話 突如来た終わり。

戦場 闘一郎が裏世界に来て1ヶ月が経ち、定時報告を日本に入れた翌日。


不思議な事が起きた。

ユータレスから上がってくるスタークの数が少なく勢いが弱かった。


「なになに?スターク達風邪?」

「お疲れなのかな?」


豊島 一樹と大塚 直人が軽口を叩きながら昼に顔を出したプリンツァにその話をする。


プリンツァは戦場 闘一郎から「隊長ならば部下に任せているばかりではなく週に4日は顔を出すように」と言われていたので堂々と顔を出して武器や弾の納品体制を説明しながら脱出の話をしていた。


豊島 一樹と大塚 直人の話を聞いたプリンツァは顔面蒼白になって「マズいです。なんでこんな時に!?」と言って慌てた。

プリンツァの慌てふためく姿をロクに見ていなかった戦場 闘一郎が心配そうに「プリンツァ?何がある?」と聞く。


「…お婆様から聞いていました。フェルタイです。恐らく何番目の勇者かは不明ですが最新部のエグスに到達したんです。エグスに勇者が到達してフェルタイが行われるとスタークの侵攻が止まります。今はおそらくその兆候です」

プリンツァの言葉に大塚 直人が「え?じゃあ終わったの?」と聞き返す。


戦場 闘一郎が「だがそうなると…」と言ってプリンツァに目配せをすると「はい。皆様は用済みとされてしまいます」と苦々しい顔で言った。


「どうする?予定より早いが脱出するか?」

「…それは皆様に決めていただきたいです。もぬけの殻の館に勇者が1人戻る…」

勇者が誰かはわからないが日本人が戻ってくる。

戦場 闘一郎は「要救助者が追加か…」と言って何かを考えた後でプリンツァに「何日で上がってくる?」と聞く。


「お婆様の時と同じなら3日後です。日々スタークが減ります。臭いは一体でも悪臭ですが、とりあえず音は聞かれていますから…」


「ちっ、かんしゃく玉か…」

用意したかんしゃく玉がまさか自分達を苦しめるとは思っていなかった戦場 闘一郎は苦々しい表情をした。


話は動いてしまい、一気に脱出に向けた話し合いをする事になる。


「コルポマはどうなる?」

「臨機応変な受け入れは可能です。ただ転移の力だけはどうにもなりませんからコルポマで待つ事になるとは思います」


「それは仕方ない、渡りは任せる。後は脱出の計画だ」

「はい」


ユータレスのあるこの場所はまだ山の中腹で、1時間下山したところを壁で覆われていて、南側にある唯一の出口には門があって、それを出て初めて北上を行い15日程歩くとコルポマが出てくる話になる。


「門番は?」

「形骸的に一日交替で兵士が1人常駐しています。エグスがコルポファに宿って強固な守りを得てからはキチンとした配置はありません。ただ…」


「ただ?何か問題か?」

「はい。門は内開きで鍵は内側、一度開けてしまうと特別な力で姫様に気付かれますし、外から鍵をかける事が出来ませんので追っ手が迫ります。後は門は南側なのでこのコルポファを半周する必要があります」

戦場は城からここに降りてくる間に見た景色を思い出しながら「追いつかれる可能性があるな」と言う。


「その後の問題は?」

「コルポマとは話が済んで居ますが野党達が居ますので安全無事な旅路ではありません」

プリンツァに聞くと10日前に出した手紙で次回の状況報告後にタイミングを見て脱出を行うから迎え入れる用意を済ませて欲しいと伝えていたと言う。


「わかった。君達はどうする?」

「私はご一緒します」

プリンツァは渡りをつけている事もあるが、食い気味についてくると言う。


戦場 闘一郎はセオとワオを見て「亜の2人はどうなる?」と聞くとプリンツァは辛そうな表情で「…恐らくは役立たず…用済みとして処分されます」と言った。


「それならば連れて行こう。彼らは外でも生きていけるな?コルポマに亜は居ないのか?」

「いえ、居ます。亜の待遇はコルポファよりコルポマの方が良いと聞いております」


戦場 闘一郎はセオとワオ、そしてプリンツァに「ならば君達は人質として脅された事にしよう。万一の何があっても君たちは無事だ」と言った。

この決断にプリンツァは余計な負担になると拒否をしたが全員一致でプリンツァとセオとワオは脅迫された人質として連れていかれる事になる。


「しつもーん!セオとワオって日本に連れて行けないの?」

大塚 直人の質問にプリンツァが驚きの声をあげる。


「何故ですか?」

「何故って、ぶっちゃけ玉ノ井さん達より桔梗が懐いてるし、勝利もワオに懐いてるから」


大塚 直人の返事に皆がうんうんと頷き、立場の無い玉ノ井 勇太と草加 岬、梶原 祐一と宮ノ前 桜がバツの悪い顔をして三ノ輪 彦一郎が返事に困った顔をしている。

戦場 闘一郎は遠慮なく「確かに」と言って「プリンツァ?」と確認をする。


「転移を試した事はありません。ですが皆様がコルポファで生きているので、逆にコルポファの命が表世界で生きる事も可能だと思います」


この言葉に豊島 一樹が「なあ、セオとワオは俺たちが表世界に帰ったら一緒に行かね?」と誘うと、王子 美咲が「うち!お婆ちゃんと2人暮らしなのに部屋はあるから住めるよ!」と言う。


この言葉にセオとワオは本当に嬉しそうに涙を浮かべて「皆様…。ありがとうございます」「私達は亜なのに優しいお言葉…、嬉しいです」と言った。


これである程度方向性が決まったところで戦場はプリンツァに「コルポマとはどうやって交渉をしている?大体の想像はつくが説明をしてもらえないか?」と聞いた。


「エグスの無効化、もしくはスタークがユータレスから出てくる以上、生贄の勇者…表世界の方達が転移で居なくなれば一年の間にコルポファは大打撃を受ける事を伝えて、表世界の方達を表世界に逃そうと言う話にしています」

この説明に戦場 闘一郎が「成る程、更なる交渉は可能か?直接交渉でも構わないのだが…」と言う。


「は?何をお考えですか?」

「コルポファの転移、装置等があればそれの破壊。二度と勇者召喚を行わせない。そうしないとあの姫の事だ、腹いせに手当たり次第召還しかねない」


確かに、召喚が行われる以上、逃げれば次が呼ばれてしまう。

それはプリンツァにも容易に想像が出来た。

そして逃げ出すような表世界の人間だとわかれば次からはこんなに手厚くもてなさないかもしれない。


「…お考えがおありですか?」

「多少なら」


「わかりました。もう脱出までの時間がないので向こうに着いてからの直接交渉になります」


それから三日間はスタークの減少を悟らせない為に全員で声を張り上げてわざとかんしゃく玉を鳴らしたりする。


そして4日目、一日中誰かしらがユータレス側の門に居て勇者を待った。

「勇者は姫様から門の鍵を渡されています。それで鍵を開けると特別な力で姫様に通達が届きます。ですので鍵穴に鍵が差し込まれる前に声をかけて止めてください」

プリンツァの言葉を信じて皆交代で勇者を待った。

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