第28話 戦場 闘一郎の1か月。

プリンツァは探りがてらリーブス姫に報告をする。


「あの新たな男はかなり有能です。確かにあの男なら次の召喚まで犠牲者は1人か2人に抑えられると思います」


この報告にリーブス姫は「んー…、それだと少ない気もするのよね。去年と一昨年の分がまだあるからいいけど…」と言って不満げな顔をする。


「それでしたら、それこそ催淫剤を試すべきかと思います。ただそれは次の召喚で猛者達が来てからの方がいいと思います」

「んー…、まあそれも手よね」


正直この方法を今すぐに取ると思えないからこそプリンツァは提案をする。

産めや増やせやは大歓迎だが、守りに入られても困るし全滅も困る。

案の定、リーブス姫は渋っている。


「それであの戦場という男ですが、しきりにユータレスを攻略すると言って私にエグスについて聞いてくるのです。知らないと言うと姫様に聞いて欲しいと言うのです」

この報告にニヤリと笑うリーブス姫は「んー…倒せるわけないのにね…」と言う。


「まあショートがエグスを知らないままに消えてくれたから良かったけど、倒せないなんて知ったらあの男は来なかったわね」

「はい。それにあまり拒否をしたりはぐらかすと謀っているのかと…」


「用心深いわね…。まあ知ってる範囲で教えて構わないわ。とりあえずエグスは倒せない事は秘密にして」

「はい」と言って指示に素直に従うプリンツァを見てリーブス姫の気分は良かった。


ショートは大損害を出して責任感に押しつぶされた無能。

デリーツは有能すぎて損害も出せない微妙。

そしてストルトは大損害を上回る全滅を引き起こしかけ、その手で表世界の人間を殺しかけた超無能。


辟易とした中、現れたプリンツァの程よい匙加減は気分が良かった。



「後は過去の…100年前の召喚について聞かれました…。なんでも向こうでは40年前だそうです」

「ああ…記録でも残っていたのかしら?」


また新たな面倒事の種にリーブス姫は苛立つ。


「表世界には失踪の記録があってどうやらショートが死の間際に漏らしたそうです」

「ちっ…、厄介ね。あの時はフェルタイしたから用済みになったのよ…フェルタイと用済みは内緒で知っている範囲で教えていいわ。でも出し惜しみはしなさい」


プリンツァはその支持を受けて帰ると屋敷では戦場 闘一郎が続々と罠を仕掛けていく。


「おおプリンツァ。どうだった?」

「ええ、中でお話しします」


プリンツァの話からやはりエグスは座敷童のような神なのかもしれないとなる。


「そちらの方はどうですか?」

「罠は順調。スターク達はどうやら色なんかは見られないし知能は低い。罠の理解はできない。一度の戦闘である程度試したが何度でも同じ罠にハマる。鋼線を用意してもらってブヨブヨを切り裂くのも手かもしれないが明日は氷結弾を使った落とし穴を用意してみようと思う」


戦場 闘一郎の登場により戦い方は劇的に変化をする。

「まずは千代田、上野ペアの邪魔にならない位置で密集陣形。火炎弾の一斉射でスタークの気勢を削ぐ。千代田、上野は一時の方角壁の裏を意識して散開火炎弾を放て、スターク共にブヨブヨが居る。直後に大塚、豊島、足立の3名は氷結弾を用意、梶原、俺と共に槍を持て」

この指示であっという間に二周目の1日目だったにも関わらずスターク共を倒す事が出来た。



数日後、戦場 闘一郎はプリンツァに「殺傷力は不要、音がうるさい踏むと発動するような弾は作れないか?」と相談してかんしゃく玉のイメージを伝えると早急に用意をさせる。


これによりこれまでは壁を越えてこないと確認できなかったスタークをある程度音で確認して迫撃砲を予測して打ち込む事が出来た。


後はマキビシを作り壁の向こうに撒くことでスターク共に少なからずダメージが与えられ、倒した後でマキビシを回収して撒き直す事で効率よく使えることが出来た。


千代田 晴輝は戦場 闘一郎の登場で武器開発から身を引こうとしたが「それは困る。これらは予測してきたり部隊で知恵を出し合ったもので俺のアイデアではない。これまで素晴らしい装備を作ってくれた千代田をあてにしている。今まで皆が無事だったのは君のお陰だ。感謝している」と感謝をされながら断られる。


プラセと会った時は「健康管理、ありがとうございます。これは表世界の薬品です。これが解熱鎮痛剤、これが整腸剤、これが化膿止め、これが抗生物質になります」と持ち込んでいた薬品を渡すと、薬の山を受け取ったプラセは「こんなにあるのか…。そりゃああの2人は不安になるな」と漏らす。


「は?」

「子供を産む時に表世界で産みたい顔をしていたんだ」


「まあ、彼らは日本以外の環境を知らぬ身なのでその非礼は許してもらえないでしょうか?」

「別に勝手に連れてきたのはこっちだよ。気にするな」


「ありがとうございます。多分会う事は叶いませんがデリーツ氏にもよろしくお伝えください。それとショート氏の件を…」

「ああ、転移に耐えられなかった。丁重に葬ってくれたと奴の家族に伝えておく」

戦場 闘一郎は深く頭を下げて「ありがとうございます」と礼を言った。



そして戦場 闘一郎の鞄からは簡単な玩具が出てくると桔梗と勝利に渡す。


「外は危険で外遊びが出来ない以上、退屈だが済まない」

柔らかいボールと熊の人形なんかを渡された桔梗と勝利は物珍しい玩具を触って不思議そうな顔をしている。


玉ノ井 勇太と草加 岬は「そうだよな、この年頃なら玩具遊びだよな、俺達すっかり抜けてた」「ありがとうございます」と礼を言い。梶原 祐一と宮ノ前 桜は「良かったな勝利」「本当、もう2歳だもんね」と言って居た。


「いや、君達のご両親からは強く帰還を願われた。この玩具類もご両親達が用意してくださった」


戦場 闘一郎はボールを持ってきた勝利に「これは君のものだ」と言ってボールを持たせていると玉ノ井 勇太が「それ、俺の手紙にも書いてあった。岬と結婚出来たのが人生最大のラッキーで桔梗が生まれてくれた事が人生のピークだって、だから死んでも2人は帰還させろってあったよ。まったくな、あれが親の手紙かってんだよ」と照れ臭そうに悪態をつくと、草加 岬は「あら、私のお父さんは玉ノ井君の人となりを知らないけどコルポファで私を守ってくれているんだからきっと頼りになる男だろう。会って話をしたいから死のうなんてさせないようにって書かれてたわ」と言う。


それを聞きながら梶原 祐一も「あー…、親って似るんですかね。ウチも帰ったらようやく始まるんだから勝利と桜の為に生きて戻れですって」と言い、宮ノ前 桜も「ウチは男の子が欲しかったから絶対帰ってこいよ?」と言って笑う。


本来ならこのような場所で軍服を模した服を着ている事が異常な二組の家族を見て戦場 闘一郎は「俺は最善を尽くす。皆で帰還を果たそう」と声をかけた。

戦場 闘一郎の言葉に皆が頷き「よろしく」と言う。



戦場がコルポファに来てから1ヶ月。

約束通り転移用の鞄に戦力報告、スタークとの戦闘データ、更に皆の返信、戦死者の生徒手帳と未開封の手紙を入れて送り返す。

荷物を送った後でリーブス姫が「プリンツァ?あの男は?」と聞く。


「はい。正直この戦力では心許ない。武器の増産を頼むと言われてある程度は要求を飲んでいます。7割くらいにしています」

「ふふ、結構よ。生かさず殺さず。忘れないでね」

プリンツァは「はい。お任せください」と言って悪い笑顔を見せた。


満足そうに眼下に見えるユータレスを見ながら「コルポファはエグスの加護で資源は豊富、コルポマからの侵攻も足止めできている。バッチリだわ」と言うリーブス姫にプリンツァは気になっていた事を聞く。


「姫様、仮に過去に送り込んだ勇者がフェルタイを果たした時はどうしますか?」

「…そんなの始末よ始末。再びエグスが目覚める日まで飼う訳にはいかないでしょ?あなたのひいお婆さんのやったみたいに表世界に送り返すのも悪くないけど、5回目の連中とショートのせいでコルポファを知られた以上そうも行かないわ」


想定内ではあったが、やはり始末をするという話にプリンツァは「…わかりました」と言った。


「あら?不服?」

「不服というか、あの知識が勿体ないのである程度のコロニーにさせてからの方が良いかと思いました」


「ああ、それ悪くないわね。でもショートの報告だと100年前の連中の生活様式ともう違っているんでしょ?きっと次の連中でも不満は出るわよ」

「そうですね」


それ以上は何も言えずにプリンツァは城を後にした。

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