第27話 戦場 闘一郎。
プリンツァと屋敷に来た戦場 闘一郎を見て全員が怒りと絶望の声を上げる。
玉ノ井 勇太が「何で来た!」と怒鳴りつけるが戦場 闘一郎は普通に「助けにだ。君は玉ノ井だな?良くやってくれた。傷はどうだ?」と聞いている。
「…そうじゃない!ここは危険な場所だって書いただろう?」
「だから来た。任せてくれ、最善を尽くす」
戦場 闘一郎は皆に簡単に挨拶をする。
「俺の名前は戦場 闘一郎、2等陸曹になる。歳は今年で21歳。災害救助をメインに行なっている。ありていに言えば特殊なエージェントだと思ってくれればいい」
そう話した戦場 闘一郎はそのまま「今は何周目に当たる?」と聞く。
玉ノ井 勇太が「あ?四周目の終わりだ」と返事をすると戦場 闘一郎は「なら余裕はあるな。とりあえず明日から装備の確認をするがその前に話を済ませよう」と言って持ってきた大きな荷物を広げながら「済まない、名前を呼ばれた者は前に出てきてくれ」と言う。
「草加 岬」
「はい?」
「ご両親からだ」
そう言って出されたのは手紙で確かに母の筆跡だった。
「え…、お母さんの字」
「そうだ。君達の家族は限られた時間で君達に手紙を用意してくれた。済まないが亡くなった者が居たら代わりに返事をして教えてくれ」
その後も次々と名前が呼ばれ、死んでしまったものの手紙は別の袋に入れられていく。
「板橋 京子」
「はい」
板橋 京子が前に出ると戦場 闘一郎は「これが手紙で、君の手紙にはかなり救われた。礼を言う」と言う。
「え?」
「三ノ輪教師の手紙は客観的に箇条書きされていたが、人柄だろう。国府台 帝王達の素行が甘く書かれていた。君の手紙は主観的だったが玉ノ井を槍で貫いた時の発言や処置までの発言が残されていて事態の緊急性がより詳しく伝わってきた」
こうして配られた手紙を皆が見る間に戦場 闘一郎は別の行動を始める。
「戦死者宛の手紙の返送に合わせて学生証の返還。次だ…温度計…生きているな。湿度計も使える。体感と変わらない…正常」
「電子機器は…報告通り反応しないな」
「機械式ならある程度は動くな、カメラは…露出計ですらダメか…。だが動作はするから後で撮り試して返送試験だな」
「銃火器は…なんだ?火薬が湿気る?焼けた?動作不良…このまま返送をして判断を委ねよう」
プリンツァが戦場 闘一郎の動きを気にして「あの、何をしているんですか?」と聞く。
「作戦の一部です。このコルポファで何が持ち込めるかの検証を行なっています」
戦場 闘一郎は話しながらも手を止めずに鞄から次々に荷物を出しては何かをチェックしている。
「ショート様とはお話が出来なかったんですか?先程2時間と仰っていましたよね?」
「…それは後程お話しします。とりあえず亜の方々と会話はできますか?」
これで厨房から呼ばれたセオとワオに戦場 闘一郎はキチンと挨拶をして「何年間も仲間の食事面を支えてくれてありがとう」と言う。
そして持ち込んでみた調味料と米を出して「夕飯に一品加えたい。後で調理場にお邪魔させてくれ」と言った。
プリンツァを連れて皆の前に戻った戦場は「返事は来月の転移までに書いてくれれば送り届けられる。今はとりあえず話を聞いてくれ」と言った。
戦場 闘一郎の話は日本がどうなっているかの話だった。
ネットなどでは既に地上13メートル付近で直線距離にある学校施設が神隠しの対象になる事を掴んだ者もいて大騒ぎになっていると言う。
「軍は40年前の大量神隠し事件との関係を調べている時、5件目の被害者である京成学院3年1組の担任、大久保勝之進氏と同じく3年1組の生徒8名、後は身元不詳の金髪の男性が突如二つ隣の教室に死亡した状態で何もない中空に現れた」
この説明にプリンツァが「死?先程リーブス姫には2時間生存したと…」と言うと戦場 闘一郎は「あれはブラフです」と言った。
「それもこれも大久保氏の犠牲あっての事。
大久保氏は何処かで予見していたのだろう。
念入りに我々に要点を伝える為に手紙を残していてくれた。
その手紙にはコルポファの状況なんかが書かれていた。
だが転移時に燃え尽きてしまう可能性や消失の可能性を考慮して同じ手紙をもう一度書き、それらを全て飲み込んでいてくれた。司法解剖で全く同じ物が出てきた事、手紙の状況を見るに転移数日前から飲食を控えて消化を最低限に抑えてくれていた。
尋常ならざる精神力だ。
そして転移中に最後に姫に言われた言葉や共に転移をしたショート氏の事をペンで腕に書き殴ってくれていた。
インクが消える事も考えて腕に彫り込んでいた。
かなりの激痛をモノともせずに書いてくれた。
これにより君たちの生存がわかった」
この説明に上野 桜子は大久保 勝之進の姿を思い浮かべて目に涙を浮かべると「はい。大久保先生は私が美大に行けるように1年の時から最大限力を尽くしてくれた先生です」と話す。
「そして国際問題になりかねないトライジンインターナショナルの生徒を避難させた後、隣の教室に板橋 京子、君の鞄が現れた。
その中にはかつての神隠し事件の被害者、神奈川 正義氏の手帳もあり仔細が書かれていてコルポファの危険性等がわかり、生存者がいる以上救出に向かう事になり我々が行動した。
だが何故誰一人として救助を求めなかった?スタークに対しての情報が少なすぎだ」
これには皆口を揃えて「こんな危険な地に人を呼べない」と言う。
「わかった。とりあえず今現在学者達がユータレス、エグスやフェルタイについて議論した結果を説明する。恐らくエグスは日本で言うところの座敷童に近いのだろうと言う事だった」
「座敷童とは?」
プリンツァが興味を持つと戦場 闘一郎は簡単に説明をする。
「子供の神様で家に宿る。座敷童の宿った家には富や繁栄なんかが約束されるが、一度宿れば永久に居着くわけではない。座敷童はまた次の土地を目指す。そうなって出て行かれた家は衰退して最悪滅んでしまう。
恐らく、エグスが座敷童だとすると旅立てないようにする為にコルポファの民はスタークを倒す為に我々表世界の人間を召喚するのだろう」
「それが座敷童…エグス」
「まだ情報が少ない。プリンツァには俺からの頼みとしてそこら辺の事を調べてほしい。無論あの姫が肝心な事を漏らすとは思えないがどんな情報も力になる」
明日以降は連携の見直しと装備の確認をする事になり夕飯の準備になる。戦場 闘一郎の持ち込んだ米や調味料であり合わせの日本食になったがそれでも久しぶりの米と醤油の味に皆が泣いて喜んだ。
戦場 闘一郎は食後にカメラで写真を撮ってみる事にする。
「お、面白い組み合わせだね」
カメラに食い付いたのは三ノ輪 彦一郎で、学生時代はカメラ小僧で戦場の取り出した2つのカメラを見る。
「はい。機械式でもどうなるかわかりませんでしたので、出来れば撮影して日本に送りたいと思います」
「成る程、こっちの「写りますよ」は明日以降、外で使おう。ストロボが死んでしまってる」
三ノ輪 彦一郎は「写りますよ」を耳に宛ててストロボを使った時の音が出ているかをチェックするとそう言った。
「はい。こっちのフィルムカメラも使い方は教わりましたが露出計が死んでいて…」
困り顔の戦場 闘一郎に三ノ輪 彦一郎がカメラを手に取って「ああ、懐かしいね。オリンピアのEF9だね。これなら散々使ったから平気だよ。フィルムの感度は?800か…、うん。これならこの明るさでも撮れるから並ぼうよ」
三ノ輪 彦一郎は皆を並べると「念の為に」と言って2枚程撮る。
セオとワオは「それは何ですか?」と興味を持ってきた?
三ノ輪 彦一郎が簡単にカメラの話をすると「凄いです!」と喜んでいた。
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