第26話 7回目の異世界召喚。
6回目の召喚は案の定失敗に終わる。
激怒したリーブス姫にプリンツァは「姫様、落ち着いてください。策は講じました」と持ちかける。
なだめるように「生かさず殺さずです。今のところ、損害は出ていますがこのペースなら全滅せずに1年は保ちます」と話すプリンツァ。
「何?亜でも増やして至れり尽くせりでもするの?食事に催淫剤でも混ぜて子供を増やすの?確かに子供が1人死ぬだけでかなりの生贄にはなるわ」
あくまで効率面、エグスの加護が消えないようにする事ばかりを考えるリーブス姫にプリンツァは嫌悪感を見せないように「ダメです」と言う。
「子を宿せば女は戦えずに戦力低下になって全滅しかねません。やるならデリーツ様の時が良かったですが、過ぎてしまったのでその作戦は来年以降に保留です」
確かに戦力低下はいただけない。リーブス姫は「じゃあ亜を増やして至れり尽くせりは?」と持ちかける。
「それは話してみた感じ向いてません。あの連中は融通が利かないのでリズムが乱れると途端に全滅の危機に瀕します」
この返事に忌々しそうに「ちっ」と舌打ちをしたリーブス姫は「そうなの?」と聞く。
「はい。なので5回目の連中とストルトは完全に足を引っ張りました」
本当にストルトと5回目の連中は良くなかった。
ストルトはデリーツやプラセの報告で必要以上にぞんざいに生贄を扱い疲弊させていたし、5回目の連中をうまく転がす事もせずに絶望させた結果、加護を失っていた。
「じゃああなたの策って何よ?」
「転移が空振りでエネルギーは半分くらいは残って居ますよね?」
「ええ、どうするの?」
「アイツらに救援要請の手紙を書かせるんですよ。万一を考えてもう話はつけてあります。生きている連中全員に家族や国に向けて助けを求める手紙を書かせて居ます。
1人2人ではなく全員が家族に訴えかけるように書かせています。
その手紙にコルポファの余計な事を書くと仲間が来ないでお前達は全滅するぞと教えました。今は必死になって従順に手紙を書いて居ます」
少しでも冷静さがあれば気になる点もあるプリンツァの話だがリーブス姫は疑う事なく話を受け入れて「あら、それは良いわね」と提案に乗っかった。
「奴らはストルトから聞いてしまった帰還者とショートの話から召喚者達が逃げ出したと思い込んで居て一苦労でしたが手紙の話から何とか落ち着きました。流石に転移で死ぬとは言えないので言いくるめるのは一苦労でした」
本当にストルトは忌々しい。愚かにも程がある。
加護を喪失した後も加護を求めて面会の打診を行ってきているが全て無視している。
リーブス姫は温情で頂上人として扱っているだけでも感謝をして欲しいと思っていた。
それに比べて、プリンツァの有能な事といったら無かった。
曾祖母の失態で加護をギリギリまで外されてもこうして加護の為に率先して動く。
リーブス姫はプリンツァの苦労を労い、「ふふ、ご苦労様。良くやってくれたわ」と言うと「加護の件、期待して居なさい」と優しく声をかけた。
プリンツァは「はい!ありがとうございます!」と気持ちのいい返事をして手紙の進捗を見てくると屋敷に向かった。
思い通りに事が運び、板橋 京子の学生鞄に詰めた手紙達をプリンツァの手で表世界、日本に送り返した。
「後は生き抜くだけです。皆さん、よろしくお願いします」
プリンツァは可能な限り手を尽くした。
そこにはデリーツとプラセの援護もあり、まずは迫撃砲でのユータレスへの攻撃が完全に認められてスタークの気勢を削ぐ事に成功をした。
これはスタークの多い日にこそ真価を発揮し、ユータレスから上がってくる個体の全てが被弾で弱って居た。
それでも損害は出る。
一進一退の中、何とか生き残る事ができ、ようやく玉ノ井 勇太はリハビリを終えて戦線復帰するようになる。
この時には桔梗は4歳になり、勝利は2歳になって居た。
玉ノ井 勇太の復帰で人減りはなくなったがそれでも一昨年…京成学院がきた時の春からすれば50人近くいた仲間達の四割近くが亡くなっていた。
ある日、屋敷に来たプリンツァの髪色がやや青みがかっていた。
「姫様から損害がギリギリ抑えられている事と、救援要請の手紙を思いついた事の評価というか御褒美の扱いですね。正直言ってみなさんの犠牲の上に成り立ったご褒美は貰いたくないのですがここで貰っておかないと怪しまれます」
プリンツァは毛先を触ってそんな事を言って居た。
プリンツァは「コルポマとは話を通してあります。7回目の召喚の日から1ヶ月後に転移の力が貯まるような手はずになって居ます」と言った。
「あれ?随分かかるって…」
「前々から少しずつ貯めてもらいました。仕上げは7回目の召喚を行った後にしてもらっています」
そして季節は巡り、遂に運命の7回目の召喚を行う日が来た。
召喚の間では全員に緊張が走る。
前回の不発時に全員がリーブス姫に殺されるのではないかと言う気になっていた。
今回はプリンツァも同席を求められて居た。
少なくとも救援要請の願いを出した立場での責任問題だったがプリンツァには痛くも痒くもない。
手出しできない表世界の問題で来なければ「表世界の連中は冷血な人でなし」と断じてしまえば許される。
そのやりとりのシミュレートも済んでいる。
プリンツァはリーブス姫の機嫌を探るように「今度こそ頼もしい方が来ると良いですね」と声をかけるとリーブス姫は辟易とするように「当然よ、一年も待ったのよ?」と言った。
この会話の後で姫は「始めて」と言う。
部屋の真ん中が光ると直後には今までの人間達とは立ち振る舞いの違う少年…男子が1人立っていた。
「ひ…1人?」
「来た…」
リーブス姫とプリンツァは別々の驚きを口にした。
来るなと書いたのに来た事に驚くプリンツァと救援要請の結果がたった1人だった事に驚くリーブス姫。
リーブス姫が何かを言う前に男は「俺の名は戦場 闘一郎。ここがコルポファか?リーブス姫は居るか?」と言う。
急いで表情を作って前に出るリーブス姫に戦場は「演技は結構。本題に入ろう」と言った。
自分のペースではない事に表情を曇らせて戦場を睨み付けたリーブス姫は「あなたお一人?」と聞く。
「その通りだ。有象無象30人よりも俺1人の方が有能だ。その事についても後で話そう」
不遜な態度の戦場 闘一郎を睨んで「有能?」と言ったリーブス姫は兵士をけしかけると戦場 闘一郎は簡単に投げ飛ばして兵士を制圧した。
戦場 闘一郎は「ふん、こんなものか」と鼻で笑うと、頬を引きつらせたリーブス姫が「…実力は認めますわ。ではあなたはユータレスに赴きエグスを目指して…」と言った所で最後まで言う前に「断る」と言われてしまった。
「全ては故・大久保勝之進殿とショート殿が残してくださった。ありもしない生贄よりも取り残された生徒達と共にスタークと戦ってやる」
この言葉に顔色を変えたリーブス姫が「な…?ショート達は生き残って…」と驚きを口にする。
「なんだ?想定外か?まあ2時間くらいの命だったがな。死人に口なしと言って帰したそうじゃないか」
リーブス姫は出発前に自身が放った言葉まで言われてしまい、嘘と断じる事すら出来なかった。
「…それで?どうすれば良いのかしら?」と言って開き直ったリーブス姫に戦場 闘一郎は「ショート殿から聞いている。1人では到底到達不可能なエグスに人を送り込み溢れ出るスタークの始末に残りの人間を使う方法、それならば俺がスタークの始末を行う。そして戦力の把握が済んだら次の行動に出る」と言い切った。
「次の行動?」
「召喚の力、転移の力はどの程度で溜まる?」
突然の質問に「何を?」と聞き返すリーブス姫に「お前達の言う表世界の4月に次回の転移を行う為に力を貯めると最短でどのくらいで貯まる?」と聞き返した。
「10ヶ月ですわ」
「なら来月と再来月、俺からの手紙を表世界に送ってもらう。お前達の書いた救援要請は要領を得ない。規模も何もわからず闇雲に兵を送れないから俺1人が戦力の把握と偵察をしに来た。俺の報告が無ければこの世界で言う昨年のようにこの先も召喚地点の高校は無人にする。
だが手紙が届けば最大戦力でこの国に兵を送り込み即時にユータレスを制圧してフェルタイでも何でもやってやる」
姫の立場としては生贄で生かさず殺さずがメインだったがゼロか1かを問われれば1を選ぶしかなくなる。
そしてショートは何も知らず、戦場 闘一郎がユータレスに乗り込んでフェルタイを行うと言った事に安心をした。
「わかりました。それでは戦力調査をしてください。すぐに屋敷に?」
「そうさせて貰う。プリンツァを呼んでくれ」
この言葉にプリンツァは「ここに居ます」と言って名乗り出る。
戦場 闘一郎はプリンツァを見て表情を柔らかくすると「君がプリンツァか、とても我々思いの優しい方と聞き及んでいる。よろしくお願いします」とお辞儀をした。
この言葉に姫はまだ何とかなる。
プリンツァは奴らの心を掌握している。
挽回は可能だと思っていた。
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