第25話 手紙。

プリンツァの話は何個かあった。

ユータレスに行った連中のフェルタイを待つか、後は目前に迫った6回目の召喚の話に関係する事だった。


6回目の召喚を持ち出された三ノ輪 彦一郎は「先ほども言いましたが恐らく表世界は策を講じます。トライジンインターナショナルは召喚されません」と言う。プリンツァは納得するように頷いて「はい。そこで皆さんに提案があります」と言った。


「提案?」と聞き返す玉ノ井 勇太に「7回目の召喚を待ちませんか?」と持ちかけるプリンツァ。これには大田 楓が「え?一年更に待つの?」と疑問を口にする。


「はい。そもそも話が前後しますがコルポマはまだ召喚の力を持って貯めていません。今から指示を出してもこの人数では溜まるまでは長い時間がかかります。

そして今日まで黙っていたのは玉ノ井氏の事があります。怪我の経過が良くない以上、早期にコルポファを脱出してもコルポマまではとても保ちません」


玉ノ井 勇太は癖になってしまった刺された個所をさすりながら「あー…、そりゃそうだ。コルポマまでってどのくらい?」と聞く。

プリンツァは「日の出から日の入りまでの歩きで15日程かかります」と説明をする。

横に居た草加 岬が「それでなんで7回目を待つの?」と聞いている中、宮ノ前 桜が「三ノ輪先生、7校目って何処になるの?」と聞くと三ノ輪 彦一郎は地図を出して「予測では獰猛学園高校ですね」と言った。


この言葉に豊島 一樹が「マジか、京成学院よりヤベェよ」と言い、大塚 直人も「な、卒業生の大半が前科者になる世紀末学園じゃん」と言う。

熊野前 康平が「教師陣もわかってて反社のフロント企業に生徒ぶち込むし…」と続けると豊島 一樹と大塚 直人は「待たない方に一票」「俺も」と言って手をあげた。



「皆さん、私の予測をお話しさせてください」

プリンツァの予測は6回目が失敗に終わればある程度の自由が保障される事、今まで以上に迫撃砲でユータレスを狙ってなんとか命を繋ぐ事が出来るだろうと言う事だった。


「そして転移で手紙を表世界に送るのです。そこに、7回目の転移後にコルポファを脱出する為の戦士を求めていると書いてください。多分救援要請の手紙と言えば姫は否定しません」


ここで話し合いの結果、救援要請はやめにするがコレまでの経緯と神奈川 正義の手帳、皆の生徒手帳や遺品の数々を6回目の召喚が失敗したら送る事にした。


それからは皆時間をかけて生徒手帳や持ってきてしまったノートなんかに家族宛の手紙を書き、脱出できない場合の遺書も書いた。


その中で皆上野 桜子に頼み込んで似顔絵を描いてもらう。

三ノ輪 彦一郎は出来上がった絵を見て余りの出来に「元々メタボリックだったので、コルポファに来て健康的に痩せてしまって娘は私だとわからないかも知れませんね」と照れていた。


そんな中でも犠牲は次々に生まれる。

堀切 拓海、越谷 桃子、墨田 元輝の3人が命を落とした。


だからこそ遺書は皆優先的に書いた。

そんな中、三ノ輪 彦一郎と生徒代表で板橋 京子が日本宛の手紙を書いた。


三ノ輪 彦一郎は教師として事務的かつ中立でオブラートに包んだ報告をしたが板橋京子はありのままを書いた。


[東の京高校、2年3組板橋 京子です。

もうコルポファに来て2年が過ぎます。

右も左も分からない中、クラスメイトの多摩君は勇者に選ばれてユータレスと言う場所に送り込まれました。わかる限りの図は書いておきます。

そして私達は多摩君が戻る日までユータレスから出てくるスタークと呼ばれる魔物と壁の中で戦う事になりました。


その壁の中に用意された住居は高度成長期の団地のような内装でトイレやお風呂は日本のものに近いです。トイレは水洗ではありません。それはなぜか後で知りますが過去にもコルポファに召喚された方が居て、その人達のお陰で食生活や暮らしが日本に近い物になっていました。

洋服や下着も高度成長期の資料で見た物でしたが、それを着て食堂に行くと私達の前に神隠しに遭っていた「東武学園」と「荒川さくら高校」の皆が居ました。

この時既に何人もの犠牲者が出ていて、1番最初の「南北高校」は全員、「東武学園」と「荒川さくら高校」の2校からは多くの人が亡くなっていました]


こうして書き始められた文章と共に可能な限りメモが残された人達の名前と死因が書かれていく。


そして生活の補助でセオとワオの事が書かれていて、セオとワオの事から亜について説明をする。


最初に隊長になった頂上人のショートは損害の多さから外されて、次に来たデリーツとは東の京高校はうまくやった話、千代田 晴輝が武器製作に力を入れ、デリーツが千代田 晴輝の期待に応えて早急に武器を用意してくれて被害者を出さない戦いが続いていく。


そんな中で、東の京高校が来る前に結ばれていた梶原 祐一と宮ノ前 桜の子供が生まれた事、帰れる日を誓って勝利と名付けられた事が書かれる。


何とか無事に過ごしていると思われた話は新年度、京成学院の生徒達が来た事で打ち砕かれると書かれていく。


[懇意にしてくれるデリーツさんと医師のプラセさんからの情報で聞き及んだだけで、真実は知らないですが、京成学院の先生や生徒達はコルポファの姫を論破して9人とコルポファの人が1人日本への帰還を果たしたそうです。後述しますが無事かどうか怪しいそうなのでここに少し記しておきます。

残された生徒達は夜中に壁の中に入れられました。そこで関屋 優斗、稲毛 頼久、海神 雄大、市川 明彦、志津 統真、八広 彩、四ツ木 未来の8人が亡くなりました。

残された国府台 帝王、小岩 茂、菅野 篤志、勝田台 風香、谷津 彩乃、大橋 礼那、上野 桜子が仲間になりましたが上野 桜子さん以外は非協力的で戦うことをしませんでした。

デリーツさんは栄転し、代わりに来たストルトさんは事務的で私達をモノのように扱う方で、戦わなかった国府台 帝王達が日本に帰還できる事を当て込んで居ましたがそれを残酷に打ち砕きました。


これによりこの暮らしに絶望をした国府台 帝王は私達のトップに立つといってリーダー役をしてくれていた玉ノ井 勇太さんを殺そうと後ろから槍で刺しました。玉ノ井 勇太さんは今も重症でリハビリを頑張ってくれています。

菅野 篤志は武器製作の立場になって戦闘を拒絶しようとして千代田 晴輝君を電撃の力で攻撃して千代田 晴輝君は右手が炭化して動かなくなってしまいました。


谷津 彩乃は生きる事に絶望してスタークに飛び込んで自ら殺されました。

そして勝田台 風香は死ぬ前に訓練で注意をしてきた大田 楓さんに仕返しをしようとして小岩 茂に乱暴を働くように仕向けて争いの中で重傷を負いました。

小岩 茂は大田 楓さんを助けに来た谷塚 龍之介さんに制圧された時に手足の骨を折りました。

大橋 礼那はストルトに日本に帰すように剣を持って恫喝して返り討ちに遭いました。


上野 桜子さんを除く京成学院の人達はこのまま助けても全員が全滅してしまう可能性からコルポファの人達と処分しました]



処分に関しては書く必要はないかもしれないが、書く必要はあると判断した板橋 京子はありのままを書いた。勝田台 風香と大橋 礼那は輸血不足もあって助からない所にコルポファの指示でスタークに処分させた事を書く。



[ストルトは大橋 礼那を切りつけた為にエグスの加護が失われた事で新たな隊長としてプリンツァさんが赴任しました。今も国府台 帝王と菅野 篤志のせいで戦力低下をしていて仲間達は次々と命を落としています。つい先日は堀切 拓海さん、越谷 桃子さん、墨田 元輝さんが亡くなりました。

プリンツァさんは一緒に泣いてくれて状況の打開を考えてくれています]



こうして何故召喚が行われたのかからエグスの加護、コルポファの話、コルポファは召喚が得意でも転移は苦手で死んでしまう可能性まで説明をした。


[最後に、この手紙が届いたということはトライジンインターナショナルの召喚は失敗に終わり、救援要請の形で手紙を転移をさせてもらう事となります。

7回目の召喚、私たちからすれば約1年後の召喚は予測では獰猛学園だと聞いています。どんな高校か知っている人の話を聞く限り、その人達は来ても良いこともありませんし困るので逃してあげてください。

私達は何とかコルポマにたどり着いて生きて日本に帰ろうと頑張っています]


板橋 京子は手紙を自分の学生鞄に入れる。

皆の生徒手帳も入れて上野桜子が全員で並んだ集合写真のような絵を描くと右上に可愛らしいイラストで下に[SAKURAKO]と書いた。


イラストを見ている板橋 京子に上野 桜子は照れ臭そうに「へへ、自画像苦手なんだ」と言って笑う。


「えぇ?上野さんならきっと上手いのに」

「いやいや、まだまだよ」


「私も何か褒められる特技が欲しいなぁ」

「板橋さんは特技あるよ」


「何かな?」

「皆と打ち解けるのが上手」


「そう?それは私が古い友達が居ないからじゃないかな?」

「そうだとしても私は話しかけて貰って救われたよ。勝田台さん達が反抗的な態度をするたびに居場所が無いと思っても板橋さんがお風呂とか誘ってくれたからこうしてここに居られるんだよ」


この言葉に板橋 京子は少しでもこの中で役に立てて居たと実感できて上野 桜子に「そうだと嬉しい。ありがとう」と言った。

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