第30話 まさかの勇者。

夜になって勇者は現れた。

その事実に全員に衝撃が走った。


戻った勇者は荒山高校の小台 空。

そして40年前の群馬 豪だった。


「待って!鍵穴に鍵を刺しちゃダメ!」

門番に聞こえないようにしながら最大限大きな声でそう言った板橋 京子の声も虚しく差し込まれた鍵穴。開いた扉からは2人の男が出てきた。

見覚えのない顔に慌ててプリンツァ達と作戦を練る。

プリンツァは戦場 闘一郎から次回の転移で呼び寄せる戦力の確認をすると言う名目で屋敷に来ていた。


2人を屋敷に隠して差し込まれた鍵は群馬 豪のものだったので苦し紛れだが、昼間倒したスタークから出てきた鍵を夜になって板橋 京子が興味本位で持ち出して門を開けてしまった事にする。


リーブス姫はまさかの門の解錠に慌てて飛んできたが、鍵が100年前の古い物だったことに「…人騒がせな…」と不満を露わにして帰って行った。

居なくなった後で豊島 一樹が「あの姫さんって案外バカだよな」と言って大塚 直人が「なんか疑うって事をしないのな」と話を合わせる。


戦場 闘一郎は「それは優位に立っているという自信があり、策を練られる事も不利になる事も無いと思い込んでいるからだ」と言った。



とりあえず戻った勇者、小台 空は梶原 祐一達荒川さくら高校の皆を見て「やあ、4日ぶり」と言った。


そのまま「なんで姫に教えてあげなかったの?姫はフェルタイを待ち望んでいるのに」と言い出して、梶原 祐一達から「良いから黙ってろ、喋るな」と怒られた。



群馬 豪は全てを知っていて「そうか…この世界で100年。日本はコイツの話通り40年も過ぎているのか…」と状況を把握してくれた。


話を聞くと当時、フェルタイを済ませた勇者は2人居て、もう1人の大宮 太郎と共に帰還を果たしたがフェルタイを済ませた事で用済で殺される事がわかり、神奈川 正義は手帳を残し、門に鍵を差し込んだ大宮 太郎は神奈川 正義達と共にビェイラの手で死ぬとわかっても日本に送り返された。


群馬 豪は再びユータレスに戻り、エグスに会いに行き、次のフェルタイに備えて送り込まれる者達を救おうと決めていた。


「私の体感はまだ100日しか過ぎていない」

そう言った群馬 豪は確かに玉ノ井 勇太達より若い。


話を聞いていたプリンツァが「フェルタイとその後を知っていて何故出てきたんですか?」と聞くと群馬 豪は驚きの表情で「君は…ビェイラ?」と言った。


プリンツァは首を横に振って「私はビェイラお婆様の曾孫のプリンツァです」と名乗ると、群馬 豪は目を伏せて「そうか、大変だったであろう?」と言った。


「はい?」

「ビェイラが言っていた。神奈川達を逃す事は許されない事、きっと厳しい罰を受けると言っていた」


ビェイラはその後加護を剥奪されてしまった事、曾孫のプリンツァもその為に髪が青くない説明をすると群馬 豪は「感謝する」と言って直角にお辞儀をした。


本来なら帰還を祝い、労いたいが時間がない。戦場 闘一郎が「話を戻そう。俺は戦場 闘一郎、2等陸曹。簡単に言えば救出に来ている自衛隊の者だ。今こちらはコルポファからの脱出作戦を行なっている。そちらの状況を教えてくれ」と言った。


群馬 豪は戦場 闘一郎を見て「成る程」と言うと「ならば話そう。最早エグスは限界が近い。近々暴走してしまうだろう。君達はエグスとコルポファの話をどこまで知っている?」と聞いてきた。

こうして群馬はエグス自身から聞いてきた経緯を話してくれた。


エグスは対の神で相方を探している。

その名はフィーデン。

フィーデン自身はエグスを探す力はないが基本はエグスを1箇所で長期的に待つという。

フィーデンを探す為に定期的に移動をするエグスはフィーデンの匂いを感じてコルポファに降り立った。


エグスの降り立った地はユータレスとなる。

ユータレスの中は傷口のような空間でスタークのグジュグジュが通路中にまとわりついているようになる。


エグス自体、望む望まないに関係なく、近くにいる者にエグスの加護が与えられ、それは運気上昇や体力強化のようなものから風邪をひかない、怪我をしない等のものまである。


だが、恩恵の他にエグスには弊害のようなものがある。

それは自身の負の感情が異形化して辺りに向けて無差別に襲い掛かるものだった。それをスタークと呼んだ。

今で言うとフィーデンに会いたい気持ちが募るとスタークがユータレスから溢れ出てくる状態になる。


エグスを落ち着かせる為には遊ぶ必要があり、スタークとの殺し合いもエグスからすれば遊びになる。そして死んだスタークや人間がエグスの力なんかになる。


「ここまではいいか?」

「ああ、大体日本の学者の見解に近い」


「ここで問題なのは生贄にされる人間の死がエグスの力、この場合にはエネルギーになるが、それがマイナスにも作用する」

「マイナス?」


「そうだ、続けるぞ」

エグスはコルポファに降り立った時、当時の姫が交渉を持ちかけていた。

それは当時コルポファとコルポマが戦争状態で、出ていく事が危険だからコルポファのユータレスにいた方がいい、そして神の力で守ってくれればコルポファがフィーデンを探すと言ったことから始まる。


この約束により神の力、守る力と生贄の力でエグスはコルポファのユータレスに縛られてしまい自力で離れることが出来なくなっていた。


「何?では人が死ねばその力でエグスの力にもなるが、同時にこの地に縛り付ける事になるのか…」

「そうなる。だから100日…外では100年もの間、エグスは旅立てなかった。そしてその事が今の問題につながる。


「どう言う事だ?」

「スタークとの遊び如きでエグスの機嫌がもう取れない。爆発寸前だ」


「爆発をするとどうなる?」

「エグスにも想像はつかないそうだ。物理的な爆発ならこの地が吹き飛ぶかもしれない。だから俺は再びフェルタイを果たして出てきた。

フェルタイを果たせばエグスは一時的に外に出られるはずだと言っていた。

エグスを数日以内にこのコルポファから出さなければ大変な事になる」

この説明に戦場 闘一郎は「…脱出と解放を同時に行えばいいのだな?」と聞くと群馬 豪は「ああ、そうなる」と言った。


ここで三ノ輪 彦一郎が「前回はどうして外に出なかったんですか?」と聞く。

「ビェイラとの話し合いでエグスに待ってもらった。一つは外に出れてもフェルタイ後で一時的に力の低下したエグスが1人で逃げ切れる保証がない事。もう一つはエグスがこの地にいる事が転移の力になる可能性がある以上、神奈川達の転移までは待ちたかった」


「何?それではエグスがこの地を離れれば表世界からの召喚はできなくなる?」

「その可能性があると聞いている。これもエグスの恩恵だそうだ」


そうなると一つの仮説が出てくる。

転移の力が使えるコルポマはなんなのかと言う事だ。


戦場 闘一郎は一つの仮説を口にする。

「まさか…コルポマにはフィーデンが居るのか?だからコルポマも転移が使える」

そうなると、色々なモノが全て片付く。


それは皆も思っていて大塚 直人が「しつもーん、じゃあエグス連れてコルポマに行けば全部上手くいくの?」と誰にと言う訳でもなく聞く。

戦場 闘一郎は「恐らく…。だがその為にはエグスと交渉をして俺たちの帰還を成し遂げてからフィーデンと旅立ってもらう必要があるな」と思っている事を言った。

こうして皆の方向性は完璧に決まった。

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