転機。

第23話 新たなる隊長。

また季節は巡った。

玉ノ井 勇太の傷は良くない。

傷つけられた臓器や場所が良くなかった為にベッドから降りれるようになるのに半年、歩行訓練から始まったリハビリ。皆と同じ戦闘訓練の参加は更に先になる。


千代田 晴輝は動かない右手の代わりに京成学院の生き残り、上野 桜子がフォローに入る形で迫撃砲を2人で操作することになった。


そんな8ヶ月の間に良い事と悪い事があった。

良い事はストルトの代わりに隊長になった少女が表世界寄りの人間だった事でデリーツ同等にうまく便宜を図り、熱心にフェルタイの日を願ってくれていた。


悪い事はこの8ヶ月の間に西ヶ原 奏子、品川 憲、新田 忠の3人が死んだ。

どうしても玉ノ井と千代田の抜けた穴は大きく、二周目2日目のスタークを倒しきれずに損害が出ていた。



京成学院の5人を処分した週末、隊長として赴任してきたのはプリンツァと言う少女だった。プリンツァはニット帽を目元まで深々と被った少女で第一印象は良くなかった。


だが「皆様が表世界へ帰れるように頑張ります!」と言った挨拶は凛として嘘偽りを感じないもので好感が持てた。


だが次の二周目に新田 忠が死んだ時、プリンツァは週末でもないのにわざわざ屋敷に来て泣き腫らした目で「哀悼を表させてください!」と頭を下げて来た。


心清らかな聖女とでも言うのだろうか?


不血の誓いで戦えないのに、戦いは表世界の人間にやらせているのに、死ねば白々しく泣いて頭を下げるのかと思ってしまった時、大田 楓がそれを口にした。


「謝るなら家に帰して。代わりに戦って、今すぐ家に帰して」


その言葉に何も返せないプリンツァに「あんた達の世界、コルポファの事は知らない。だから礼儀云々言えないけど私達の国では挨拶する時には帽子は取るの!それもしないで仲間の死を悼まないで」と大田楓が続けた時、プリンツァは真剣な目でニット帽を取った。


そこには目を疑うような光景が広がった。

白に近いレモンイエローと白に近いスカイブルーを合わせたような、角度によっては黄色に見える白髪だが青も何処かに居るような髪色。


周囲が言葉に詰まる中、プリンツァは「髪色を理由にしたくなくて隠していた事をお許しください」と頭を下げて来た。



プリンツァの話ではプリンツァの曽祖母、100年前、表世界の勇者達の隊長をしていた曽祖母ビェイラはとある問題を起こして不血の誓いの加護を最低のギリギリまで外された事を説明した。


100年の部分に反応した千代田 晴輝が「100年?表世界では…三ノ輪先生?」と三ノ輪 彦一郎に確認をして三ノ輪 彦一郎も「ええ、大体40年前だった筈ですよ」と帰す。


「それは時の流れが表世界と裏世界で違うからです。過去はコルポファの一日が表世界の1年…もしかしたら2年に該当したのかも知れません」

確かにその可能性もあるのだろう。


「その時、隊長をしていた曽祖母は過度の肩入れをしました。その為に怒りを買って最低ランクまで加護を外されてしまいました。それは子々孫々受け継がれています。私はまだマシで母なんかはもっと青が薄かったんです」

プリンツァの言葉に一同はこれ以上青みのない青はどうなるのかと思ってしまっていた。


「お婆様達からは言われていました。この先またコルポファが勇者を求めて表世界の方々が招かれた時は必ずお手伝いをするようにと…。ですが同時に髪色を見せて同情を引く事は許さないと言われました。だから帽子で…」

この言葉に毒気の抜かれた大田 楓は「ごめん。何も知らないのに怒鳴ったりした」と言って頭を下げて謝る。



「いいんです。プラセ様がデリーツ様に話してくれて私こそが表世界の方々に寄り添えると推薦してくれてのぼせ上がっていました」

この言葉で打ち解けた事もあり、プリンツァの尽力を皆がありがたく受けるようになる。


まず始めた事は個体を減らす事で、千代田 晴輝と上野 桜子が前日のうちからユータレスに向かって迫撃砲を使って電撃弾や火炎弾を撃ち込むと翌日の個体が減っている日もあれば傷付いた個体が侵攻をしてきて容易に倒せる日もあった。


これにより前日の攻撃の有用性は認められたがすぐに兵士から報告を受けたリーブス姫から物言いがついた。


だがプリンツァは次の4月までか問題が出るまでの期間限定として姫を説得した。

プリンツァは姫の前では冷酷なまでに表情を殺して「今以上に戦力が低下すると次の召喚まで保ちません。更に次の召喚で十分な個数が追加されないとそこで終わりです。必要数には届いたのですか?」と曽祖母の教えを使って姫を説得した。


リーブス姫は意外そうに「ふふ。曽祖母は肩入れしすぎて加護を外されたのにあなたは違うのかしら?」と聞く。

そもそもそれを知っていてもプラセの推薦を受けてプリンツァを隊長に任せる余裕と自信がリーブス姫にはあった。


プリンツァは「迷惑しております。結果を出したら加護を頂けませんか?私、その為にプラセ様達を欺きましたの」と返すと満足そうに笑った姫は「任せなさい。それにしても秘密は知っているようね」と言った。


「祖母からは断片的に聞きましたのでエグスやフェルタイの真実はわかりませんがコレが必要数に到達するまで続く事は聞いております」

「まあそれだけ知っていれば十分だわ。加護の件は任せなさい」


「ありがとうございます。私は表世界の人間達の前では泣いたりしますが裏切りなどではありませんので誤解などは…」

「しないわ。任せます。一つ、ルールだけはあるの…」


リーブス姫が続ける前にプリンツァが「はい、生かさず殺さずですね?」と聞くと嬉しそうにリーブス姫は「ふふ、うまくやりなさい」と言った。



これにより説得は成功して前日攻撃で全滅の危機は免れたが、それでも被害は出る。

8ヶ月の間に杉並 果奈子と浅草 翔太が死んだ。


「これ以上の人員低下は全滅の危険があるな」

そう言う梶原 祐一にプリンツァは「雷撃弾や火炎弾の増産を打診します」と答える。


この8ヶ月、被害は出ているが間違いなく便宜を図り、結果を出したプリンツァの言葉に三ノ輪が「よろしくお願いします」と言った。


唸るように熊野前 康平が「こんな事考えるのも間違いだけど4月に増員が無いとキツイよな」と言って小菅 大樹が「だけど京成学院みたいなのだと困るぜ?」と言う。


ここでプリンツァは意を決して「次の方々の情報はわかりますか?」と聞いた。

それに噛み付いたのは谷塚 龍之介で「何だ?スパイでもしてるのか?」と問いただした。


プリンツァは「そう言われると思っていました。私はお婆様の遺言を果たす者、その為に母達と共に皆生き恥を晒して来ました」と言うとセオとワオに「亜の2人は姫様と勇者様、どちらを尊重するの?」と聞く。


「姫様ですが勇者様です」

「私達は勇者様の為に行動します」


そう答えたセオとワオにプリンツァは「ならここで起こる事はプラセ様やデリーツ様にも言ってはなりません」と言うと席を立って食堂の端の床板を外すと一つの手帳を出してきた。


「手帳?」

「はい。今回の勇者召喚に合わせてこの屋敷を建てた時に居た亜はかつてお婆様と勇者様達のお世話をした亜の子孫でしたからお婆様との約束で隠しておいてくれました」


そうして手帳を開くプリンツァは情けない顔で「表世界の字は読めません。皆さんでお読みください」と言って三ノ輪 彦一郎に渡してきた。

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