第22話 処刑。

ストルトがランク外になってすぐ、屋敷の扉が開きデリーツが飛び込んできた。


デリーツは「どうなった?表世界の諸君!無事か!?」と言ったが厨房で血を流して倒れる大橋 礼那と大橋 礼那の前で絶望の声を上げて蹲るストルトを見れば無事からは程遠い最悪なのは誰の目にも明らかだった。


プラセは助かったといった顔で「デリーツ、来てくれたか」と言い、デリーツも「プラセ、呼んでくれて助かった」と言う。


「姫の説得は?」

「勿論キチンと成し遂げた。何よりもプラセの報告の賜物だ」


ここで出たプラセの報告はストルトと表世界の人間たちはデリーツの時ほど友好的ではないので全滅の危険もあると言うもので、デリーツはプラセから相談を受けていた身としてリーブス姫の元に行き、事態を伝えて「ストルトでは虚偽の報告をする恐れがあります。私に確認の許可をください」と言い、姫の許可を得ることができた。



デリーツは改めて委細を知る。

姫を論破してショートを連れて表世界に帰った9人、その残りが戦いを拒否して居た事。

自分達も表世界に帰れる事を夢見て耐えて居たのにストルトから浴びせられた残酷な現実。

そして自分の居場所をつくる為の同士討ち。

死を望み殺された者。

死を覚悟した上での仲間を犯し殺そうとした事。

最後にはストルトに表世界へと帰すように迫って反撃に遭い、ストルトは不血の誓いによってランク外になった事。


話を聞いたデリーツは額に手を当てて「愚かな…。ストルトも愚かだが今年の勇者達はまことに愚か」と漏らす。


デリーツは皆に「悪いようにはしない」と言って姫の元に行き、セオとワオには厨房の掃除を命じながら新たな包丁を手配した。



姫は話を聞いて怒りと呆れと喜びの入り混じる顔をした。

そしてデリーツを見て「どうするべきかしら?」と聞く。

デリーツは「残った5人は害悪になります。処分すべきです」と言った。

リーブス姫は少し考えた後で「処分は…困ります」と言い、まさかの発言にデリーツが「姫?」と聞き返す。


「不血の誓いがある以上、我々頂上人は手出しができません。亜共が表世界の方たちに手を下すなど以ての外」


言っている事はコルポファとしては間違っていない。

デリーツはリーブス姫の言葉の真意を探るように「そうなると勇者達に始末をつけろと?」と確認をする。


「いいえ。違います。始末は全てスターク共にやらせるのです」

「スタークですか…」


訝しむデリーツにリーブスは「それでしたら不問に処します」と続けると、デリーツは感謝を口にして屋敷に戻る。

屋敷に戻ったデリーツの話を聞く前にプラセは「よくないな」と言った。


「何がだ?」

「輸血が足りない。3人はどうやっても無理だ」


この3人と言うのは玉ノ井 勇太、勝田台 風香、大橋 礼那の3人になる。

デリーツはプラセに「輸血をしない者はいつまでもつ?」と聞く。


「なに?」

「姫様からだ、処刑はスタークに任せる」


「朝までか…それなら何とかなる」

「わかった。彼らに言おう」


デリーツは皆を食堂に集めると「暫定でもないが…ストルトが隊長職に相応しくない事を姫に報告してきた。私が姫との橋渡しを請け負う。今も造反者の件を聞いてきた」と話し始める。

現在、京成学院の5人は先程大田 楓が襲われた部屋に押し込めている。

もっとも傷の深い大橋 礼那と勝田台 風香はベッドで眠らされている。


「処分の許可が降りた」

「それってデリーツさんや兵士さんが連れて行ってくれて殺してくれるんですか?」


梶原 祐一はもう言葉を選ばない。

この問いにデリーツは「それは出来ない。我々には不血の誓いがある」と言った。


ここで大塚 直人が「しつもーん、その不血の誓いってなんですか?」と聞く。何年も前にセオから聞いていたが大塚 直人は流れで聞いていた。

デリーツは「我等を外敵から守ってくれるモノだ。簡単に言えばこの前そこの子が熱を出したとプラセから聞いた」と言った。

梶原 祐一はセオに抱かさる桔梗を見て「あー、風邪引きましたよね」と答える。


「それだ。我々は不血の誓いで守られていて風邪を引かない。ストルトは近日中に風邪をひくだろう。後は…」

「まあ詳しく言っても必要無いだろうが、私で言えば医療行為の面で失敗が減る」

デリーツの話に合わせるようにプラセが説明をする。


「加護と能力の付与?」

「まあそんな所だ」


「ふむ。話を戻そう。姫は表世界の君達が手を下す事もよしとはしなかった」

「じゃあどうすんですか?」


デリーツは少し言いにくそうに「夜明け前に5人を屋敷の外に捨てて欲しい」と言った。


「…スタークにやらせるんですか?」

「そうだ。姫様から出た許可はそれだ」


「あの!ここで彼らが心を入れ替えたら!?」

そう言ったのは板橋 京子だったが、食堂は一瞬で白けたような空気になる。



場をとりなすようにプラセが「まず無理だよ。腐った傷口を必死に誤魔化すようなもんだ。治った風に見えてまた腐る。今度はもっと酷くなる。今も上で死にかけてる仲間と服をダメにされて腕を切られた仲間を見て冷静になるんだ」と言った言葉に板橋 京子は言葉を失う。


確かに今も二階では玉ノ井 勇太が死線を彷徨っていて草加 岬が涙ながらに必死に呼びかけている。

そして真新しい包帯が痛々しい大田 楓はまだボタンを斬り飛ばされたままの服を着ている。



板橋 京子が言いたいことはデリーツにはわかっていた。

「命を奪う覚悟がないのであろう。だが私は元隊長として君達を救い表世界への凱旋を成し遂げてもらいたい。その為に不和の目は摘んで貰いたい」


板橋 京子に向けてかけた言葉に板橋 京子は少し救われたように「…はい」 と返事をする。

ここで意外そうに梶原 祐一が「デリーツさん、アンタは俺達を帰そうとしてくれてるのか?」と聞く。


デリーツはハッキリと「当然だ。君達は使い潰されていい消耗品ではない。表世界の命だ。ストルトは愚か者で君達を戦力としてしか見えていなかったのだ」と言う。


この言葉で草加 岬を除くメンバーで話し合う。

足りない輸血は全て玉ノ井 勇太に回す事で玉ノ井 勇太を救い、残りの2人は切り捨てる事を決める。


2階の奥の部屋からは悲痛な声が聞こえて来る。

血の足りない勝田台 風香と大橋 礼那の「寒い…」「死にたくない…」と言う声、折られたまま処置されていない手足の痛みに悶える国府台 帝王や小岩 茂、菅野 篤志達の「痛い」という声。


年長者の三ノ輪 彦一郎の提案で食事に強力な睡眠薬を混ぜて食べさせることにした。



そうする事でせめて罪を軽くしたかった。



「寒い」「怖い」「死にたくない」

そう言う勝田台 風香と大橋 礼那には大田 楓と上野 桜子が立候補をして「今は輸血が足りないって、明日には届くから食べて休みな」「痛み止めも中に入れて貰ったから食べると痛くないですよ」そんな事を言いながら食べさせると2人はすぐに眠りについた。

配膳を手伝った板橋 京子は目の前で生きている人間が間もなく死ぬ事を見て震えてしまう。


せめてもの救いは勝田台 風香は大田 楓に、大橋 礼那は上野 桜子に一言も謝罪しなかった事。全て自分の立場で言葉を発し、「寒い」「怖い」「死にたくない」と言ったことだった。


男子は暴れられても困るからと谷塚 龍之介と沖ノ島 重三が食事を与えた。

こちらも罪を悔やむ事なく折られた手足の心配ばかりだった。


その後の数時間は長かった。

セオとワオが休むように声をかけても誰一人食堂を後にしない。


「宮ノ前さん、君は眠りなさい。お母さんがそんなでは勝利くんが参ってしまうよ」

三ノ輪 彦一郎に言われても宮ノ前 桜は食堂を後にしないで勝利を抱いて寝かしつけている。


処刑を見守るとして屋敷に残ったデリーツと玉ノ井 勇太の治療に残ったプラセは「私が見ているから亜の者達と数名は眠りたまえ」「明日も戦うんだから半分は寝ておけ」と声をかけたが誰も眠らない。

ムードメーカーの豊島 一樹と大塚 直人ですら真剣な顔で押し黙っている。


ロクな言葉も発さないまま、夜はふけて朝が目前に迫る。


梶原 祐一の「時間だ」と言った言葉で全員が立ち上がる。

全員で2階の奥の部屋に行くと眠っている5人に目隠しをする。

抱きかかえた勝田台 風香と大橋 礼那の身体は冷たく震えていて血が足りていない事がわかる。


外に出してまだ冷たい地面に横たわらせると小岩 茂が目を覚まして「え?ここ?外?なんで?」と慌て出した。


慌ててその場を離れて食堂に戻ると外からは「国府台さん!菅野さん!」と起こす小岩 茂の声が聞こえる。


せめて苦しまないように眠らせたのに台無しになる。

そして夜明けと共に現れたスターク。

独特の悪臭と共に聞こえる小岩 茂の絶叫。折れた手足で必死に屋敷に向けて近づいて来るのだろう。声がより大きく聞こえてくる。


そして激痛にのたうつ小岩 茂の悲鳴。

その悲鳴で起きた国府台 帝王達の絶叫と悲鳴。


「助けに来い」

「早くしろ」


そんな言葉はすぐに変わる。


「助けてくれ」

「死にたくない」

「痛い」


そんな叫び声の後で聞こえて来た悲鳴を最後に外は静かになった。

それから少し待って全員で外に出てグジュグジュを全て排除をした。


5人全員無惨な形で死んでいた。


午後はそれを埋葬して初めてデリーツは「見届けた。報告を行う。ストルトの代わりは私になるのか別の者になるかはわからないがこれからもプラセを経由して私にも話が届くようにするから遠慮なく頼ってくれ」と言って帰って行った。



夕方になり玉ノ井 勇太は輸血の甲斐があり、意識を取り戻したがプラセに言わせるとこれからが大変だとの事だった。

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