第14話 5回目の異世界召喚。
教室一面に光が広がった。
誰一人として騒がずに参考書に向かっていた京成学院3年1組の生徒達はそのままコルポファに送られた。
進学校で受験対策がメインになっていて新学期早々に出席日数を気にする生徒は出席をしに来て自習を行っていた。
そんな最中のコルポファへの転移だった。
いくら京成学院でもこの状況には声を荒げてしまう中、リーブス姫は「皆様、落ち着いてください」と言いながら勇者に相応しそうな人間を見繕う。
過去4件は皆「ここはどこ?」「え?教室に…」等と言っていたが今回の連中は「何だこれは?」「こんな時間は勿体ない」「模試」「受験」「勉強」等と言っていて過去4件とはまた毛色の違う連中にリーブス姫は困惑しながらも勇者を探す。
勇者を探しながらこちらを向かせる為にリーブス姫は優しく微笑んで見せながら「ここは皆様の世界からすると裏世界になりますコルポファです」と言った。
「は?」
「そういうのいいんで」
「青い頭とか不良ですね」
「話すと偏差値が下がりそうです」
子供達はリーブスを見ようともせずに皆手に持った本に集中してしまう。
思わぬ状況にリーブス姫は憤慨しかけたが「この世界は危機に瀕しています。式たりに則り世界を救う勇者を表世界から召喚しました」と例年と変わらぬ言葉を使う。
「それ、あなたの都合ですよね?」
「先生、時間が惜しいので代わりに受け答えしてください」
「うむ、皆は1分1秒を惜しんで一つでも多くの単語・漢字・数式を覚え、一つでも多くの問題を解いていなさい」
そう言った年配の男はリーブス姫の前に出て「私は京成学院3年学年主任の大久保 勝之進。低脳そうな青い髪をした君、危機だか何だか知らないが理路整然と説明したまえ」と言う。
リーブスは姫としてここまでの侮辱は受けたことが無いと憤慨したが、ここで心象を悪くして暴れられても困る。
必死に感情を殺して、ここが裏世界コルポファである事、滅びの危機に瀕していて勇者を求めている事、全員の顔を見て予言書に書かれた勇者を見つけなければならない事を説明した。
大久保 勝之進は「ふむ。荒唐無稽だがこれを集団幻覚等と決めつけるのは低脳のする事。まず第一段階として受け入れよう。君、ではコルポファの国土面積は?人口は?産業や識字率、成人までの生存率を答えたまえ」と質問をする。
当然想定外の展開にリーブス姫は「え?…何を?」と聞き返す。
ここでリーブスの横に居た兵士が「姫に何たる侮辱!」「いかに表世界の方と言えど許せませんぞ!」と吠える。
だが大久保 勝之進は慄く事無く「…ふむ。王制なのか?」と言った後で兵士達に「それは民主的に選ばれたのか?それとも世襲制なのか?それに君、表世界だから許せないと言われても何の説明もなく受け入れる方がどうかと思う。詐欺に遭う可能性もあるぞ?それに姫と言ったがなぜ彼女は名乗らない?信頼関係を構築するにあたって自己紹介は必要。だからこそ私は大久保 勝之進と名乗った。まず彼女は姫云々の前に信頼関係の構築を失敗した。彼女の不出来のせいで交渉の第一段階は決裂をした。用があれば出直してくるか、別の者を寄越すか、彼女の教育係と彼女が頭を下げて許しを乞うかだ」と言い切る。
一気に捲し立てる大久保 勝之進の言葉に兵士達はタジタジになる。
リーブス姫が何も言えない中、たじろぐ兵士を見て大久保 勝之進が「君、名前は?」と1人の兵士に聞く。
「も…モブヘイです」
「ふむ。一つ質問をさせてくれ、無論対等な関係として黙秘をしてくれても構わない。私も不都合な質問には黙秘を行う」
大久保 勝之進の声は力強くよく通る声でモブヘイはすぐに流れに飲まれていた。
「は…はい」
「先程の私の発言、ロジカルに考えれば間違いはない。だが心理的には言い逃れのできない正しい事を言われるとなんとか優位に立つために反撃を試みよう、もしくは知性で敵わなければ別の力、有体に言えば暴力で相手を屈服させようとするものだが君は何故向かって来なかった?訓練と教育の賜物かな?」
この質問に兵士はしどろもどろになりながらも答えては更に大久保 勝之進が質問を続ける形で遂に「不血の誓い」を話してしまう。
「ふむ、古の盟約により他者を傷付けられないということか、ありがとう」
「い…いえ」
「だが疑問は残るな、それが仮に真実だとして病や怪我の場合もある。子供が転べば膝を擦りむく。出血をする。病気になれば内臓出血、下血、吐血、血尿等の症状も出てくる。そもそも女性には月経がある。それはどうなる?」
「え…?自分の身体から出る分は不問です」
「曖昧だが優遇措置か?わからないな。兎を一羽二羽と数えた話のようなものか?」
「後は医者や料理人なんかは最低ランクになります」
「ふむ。他者の血液を浴びる、他者を傷つけ出血をさせるとそのランクと言うものが下がるのだな」
「はい」
「ランクはどこでどう判別する?自己申告制かな?」
「髪色です。コルポファに生まれた我ら頂上人は皆ユータレスの力で青い髪で生まれます。髪色が青ければ青い程高貴な証明になります」
この説明に納得をした大久保 勝之進は「では君、失礼に当たらなければ兜を脱いで髪色を拝見することは可能であろうか?」と聞くと兵士は「はい」と言って兜を脱ぐと水色をやや薄めたような髪色をしていた。
「ありがとう。その色は生まれつきかな?」
「いえ、生まれた時はもう少し濃い水色でしたが職業柄人を傷つけたときに出血をされると髪色は薄まってしまいます」
「成る程、それでも続ける意義のある職業だと言うことはわかった。では彼女のような色のものは?」
「過去には王があの髪色でしたが亡くなっておりますので姫のみです」
ここでリーブスは慌てて「ですから我々は表世界の方に頼る他無いのです!」と声を荒げる。
大久保 勝之進は辟易とした顔でリーブス姫を一瞥して「姫の説明は主観的でわかりにくい」と言うと目の前で兜をふたたび被ったモブヘイに「モブヘイ氏と話がしたい。モブヘイ氏、申し訳ないが通訳のように間に入ってくれないか?」と聞くとモブヘイは「え?は…はい」と言った。
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