第12話 姫の本音。
勝利が生まれて4ヶ月が経っていた。
梶原 祐一は深い傷にも関わらずほぼ治っていて「眉唾物」と言うがプラセに言わせると表世界とは別でコルポファは怪我の治りが早いと言われて梶原 祐一の怪我もプラセに言わせると月並みだとの事だった。
そして東の京の生徒たちに言わせると驚きだったのがキチンと裏世界には四季が存在していて、夏が過ぎて秋になった。
小台 空やその他の勇者達は無事なのか、そう思いながらも裏世界での日々に順応していて、戦果は優秀の一言に尽きる。人的被害、軽微な怪我はあっても損耗は無い。無敗同然で未だに脱落者の1人も出していない。
これは4年目にして初の偉業でデリーツも鼻高々だった。
翌週から戦線に復帰する梶原 祐一と宮ノ前 桜を見てデリーツは盤石だな!と喜んで帰って行った。
デリーツに興味を持った豊島 一樹がセオにデリーツのご機嫌の意味を聞くと「以前のショート様は…その…」と申し訳なさそうに話した後で「損耗率が高くて解任されました」と続けた。
そこに「とは言え、デリーツも何かしてるわけでは無いけどな。南北高校はノウハウもない中でよくやってくれてたよ」と言って玉ノ井 勇太が少し困った顔をする。
豊島 一樹が何かを聞く前に玉ノ井 勇太が「俺たちがこんだけ生き残ってるのは南北高校が一年死に物狂いで戦ってくれてたからで、完璧に腐る前に南北の人達が励ましてくれて、道を示してくれたからなんだ。それに変な話だけど先輩が居てくれるとやるしかない、どうしようもないってわかるだろ?」と説明をしてくれた。
「確かにそうですね。皆さん居ないで俺たちだけで登坂も死んじゃってたからダメだったかもですね」
「だから前の隊長さんは何にも悪くないんだよ。それなのに俺達が来て少しした時に交代になったんだ」
この話に豊島 一樹が「まあ、それならこのままデリーツが隊長ならうまく行くでしょ?早く多摩のやつフェルタイしてきてくんねぇかな」と言うと大塚 直人が「あれ?豊島って勇者信じてんの?」と聞いてくる。
「まあ一応」
「…そうだよな」
この大塚 直人の言い方が気になった豊島 一樹が「ん?大塚さんは勇者信じてないんすか?」と聞く。
大塚 直人は「信じてるけど、あの姫さんは信じられねえんだよな」と言って城の方角を見た。
この後も破竹の勢いで脱落者を出す事なくスタークとの戦いを制して行く表世界の人間達。
デリーツも来る度に鼻高々で帰って行く。
だがそれをよく思っていない者が居た。
表世界で言うところの月曜日。
デリーツは先週までの報告を行う為に必ず姫の元を訪れる。
だが最近はこの日が憂鬱になりつつある。
前任のショートから仕事を引き継いだのは表世界で言うところの2年目の9月で南北高校が半壊、東武学園が少し減ったところでの交代となった。それから約1年は損害も出たが姫はデリーツに「大変な仕事ですがよろしくお願いします」と言ってくれていた。
任されて2年目になり荒川さくら高校のメンバーが送り込まれてきて、怪我は多かったが死者が減った時には「まあ!ありがとうございます。デリーツに任せた事は間違いではなかったですわ!」と言われた。
そして今年…新たに加わった東の京高校のメンバーは大変優秀で学力任せの頭でっかちでも無ければ体力自慢の野蛮人でもなく武器図面を描いてよこし、資材の交渉も行ってくる熱心さでそれに伴う結果も出している。
初めこそ姫の機嫌は最高に良かったのだが、夏を過ぎた辺りから徐々に悪くなり始めて「損害は?そう、優秀だ事。人選間違えたかしら?」と嫌味まで言うようになっていた。
「リーブス姫、ご機嫌麗しゅうございます」
謁見を行ったデリーツはソファに身を任せるザ・不機嫌な姫の睨みに理由を見出せずに困惑するが表情は崩さない。
「ええ、ご機嫌よう。デリーツ?今週も損害はゼロかしら?」
「はっ、軽微な怪我はありますが何とか先週も乗り切りました。明日からは二周目になりますのでこの怪我が響かなければ良いと思っております」
この報告に姫は「そう。1人くらい死ねばいいのに」と言う。デリーツは耳を疑い「は?」と聞き返してしまった。
意外そうなデリーツの顔に姫は「ああ、デリーツはショートが殺しすぎたから数が減らないように任命したのよね。私の望みは生かさず殺さずなの。また春には次の召喚を行うから無駄遣いして貰っていいのよ?」と言ったが、デリーツにはわからない事だらけだった。
姫に選ばれた生贄を勇者と呼び、白装束でユータレスに居るエグスに捧げる。
それは城の人間ならみな知っている。
そして生贄は亜では話にならず、頂上人は身分の高い者でも表世界の人間には到底敵わない。
表世界の人間1人の犠牲で頂上人の100人以上、下手をすれば200人近い生贄に相当すると言う。
しかしユータレスに居るエグスが生贄に満足をしてフェルタイが終われば表世界に送り返す。
その為にも呼んでしまった勇者以外は生かす必要がある。
そして頂上人には過去の儀式で得た不血の誓いによってユータレスからはい出てくるスタークとは戦えない。
スタークは異形の見た目ではあるが命であって傷付けると体液…血を流す。
だからこそ戦いを表世界の人間に任せている。
その個体数が減る事は正直よくない。
だからこそ前任のショートは損耗率の高さが原因で解任されたのだとデリーツは思っていた。
そして不血の誓いは何も戦闘面だけではない。医師のプラセなんかも医療行為だが誓いを破った者として最早最低ランクの髪色をしている。
食肉なんかも亜に処置させるが料理人はどうしてもランクが下がる。
食べる人間のランクが変動しないのは不思議だがそこまでシビアでない事に救われている。
だが医師も料理人達も神から与えられた仕事としてランクの枠組みから外した仕事としている。
青々とした髪色の姫はそれなのに表世界の人間を死なせてしまえと言った。
「まあその事は意識しないで結構。デリーツは今の通り数が減らない事を意識して次の召喚まで頑張ってください」
「はい」
デリーツは気味の悪い気持ちのまま姫の元を後にする。
帰り際、窓から見えるユータレス、そしてその横に建てられた屋敷を見た。
「生まれた命を遠く離れた親達に見せたいであろうな。フェルタイの日まで生きて欲しいものだ。済まぬ…我等は弱き民、貴公らの助力無くしてフェルタイは迎えられないのだ」
デリーツはそう呟いて帰路に着いた。
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