第11話 名前の意味。

宮ノ前 桜が目覚めると横には生まれたばかりの息子とその父親になる梶原 祐一が眠っていた。


「あ、桜起きた?」


お見舞い代わりに居た、同室の早稲田 七海が顔を覗き込んでくる。


「うん…」

「私のベッド、梶原君に取られちゃったよ。だから今日から少しの間は梅子と同室になるね。梅子のところは紗栄子の後が居ないからさ…」


隣の町屋 梅子の部屋は栄町 紗栄子の死以降相席が無かった。

それはなんとなく慟哭の叫びを上げた大塚 直人への気遣いと言うか、ここで部屋まで無くしたら大塚 直人は潰れてしまいそうだったからあえてその日のまま残した。

これにはセオとワオ経由で聞いたデリーツも「好きにしたまえ」と好意的だった。


「うん」

「それにしても赤ちゃん梶原君にそっくりだね」


宮ノ前 桜が横を見て息子の寝顔を見て「似てるかな?」と聞くと早稲田 七海は「似てるよ。そんでその似ている梶原君は左腕の骨折とあばらの骨折ね。腕は深く切れてたからプラセさんが縫ってくれたよ。まあ命に別状は無いって」と言う。

宮ノ前 桜が知りたがりそうな事をポンポンと話してくれる早稲田 七海には感謝しかなかった。


「そんで、今は次の日の夕方。授乳は草加さんが乳母を申し出てくれたから赤ちゃんはお腹いっぱい。逆に私達はスタークを倒してお腹ぺこぺこ」


「え?私ずっと寝てたの?」

「そうだね。梶原一家では赤ちゃんが1番起きてるね」と言うだけ言った早稲田 七海は「ご飯、セオちゃん達に増やしてって言ってくるよ」と言って部屋を後にした。


1人…ではないのだが、1人になって横に眠る息子とその横で眠る梶原 祐一を見ると生の実感と死の実感が襲いかかってきた。


たまらず不安になるがすぐにクラスメイト達が「邪魔しない」「一瞬だけ」と言ってきては「おめでとう」を言っていく。


少し不服なのは誰も赤ん坊が宮ノ前 桜に似ていると言わなかった事だった。


「うるせぇ…」

そう言って起きた梶原 祐一は「…痛え、生きてるけど痛え」とボヤく。


「おはようパパ。何があったの?」

「ん?ブヨブヨが出てきやがってなんでかわかんねえけど、アイツらこの屋敷を狙いやがったから慌てて止めに入ったらやられた。槍は刺さらねえし、攻撃食らって腕折れて、胸から落ちてアバラ逝った」


コルポファに来て以来、荒れた日もあったが戦闘では冷静に対処していた梶原 祐一が怪我をしてしまうことに宮ノ前 桜は驚いてしまった。


そこに担任の三ノ輪 彦一郎がゆっくりと入ってきて「お疲れ様、おめでとう。宮ノ前さん」と声をかける。

宮ノ前 桜は「先生、無事に生まれてくれました」と報告をする。


「うん。明日から3週間は無理せず休むんだよ」

「でも梶原が…」


「平気さ、今日だって2人抜きでやれたんだ。油断しなければ平気だよ」

三ノ輪 彦一郎はそう言って梶原 祐一に「片手が使えないからね。仕方ないからってゆっくり休むのも、起きてトレーニングするのも任せるからね」と笑いかける。


バツが悪そうに黙っている梶原 祐一を見て「ふふふ」と笑った三ノ輪 彦一郎が「さて、皆が気にしてるから名前を教えてくれるかい?」と聞く。


「名前…。梶原、決めてたんだよね?」

「おう、キチンと決めてたよ」


「じゃあ教えてよ」

「おう。この子は勝利と書いてカツトシって読ませる」


「勝利…」

「そうだ。俺たちはスタークに勝って日本に帰るから勝利だ!」


宮ノ前 桜は梶原 祐一がキチンと名前を考えてくれていた事に嬉しい気持ちになり、三ノ輪 彦一郎は「桔梗ちゃんといい、良い名前だね」と言った。


三ノ輪 彦一郎に良い名前と言われた宮ノ前 桜は「ありがとうございます先生」と返す。

それを聞いていた梶原 祐一が「三ノ輪先生、赤ん坊の名付けにケチつける奴なんて居ます?皆大体名前を聞いたら好意的に捉えません?そりゃあ子供の名前が犬猫の名前なら物言いつくでしょうけど…」と呆れ口調で質問をしてくる。


三ノ輪 彦一郎は少し辟易とした顔で「それが世の中には一定数そう言った不粋で失礼な輩が居るんだよ」と言った後で「でもまあ分かりやすくていいよね。そう言う輩とは仲良くなんてなれないからね」と答える。


そして言うだけ言って三ノ輪 彦一郎は降りて行くと下からは勝利の名前に豊島 一樹と大塚 直人が「ナイスな名前!」「勝ったも同然!」と大はしゃぎしていた。

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