第7話 実戦。

翌日、板橋 京子の目覚めは最悪だった。

なんとも言い難い汚臭が屋敷の周りに立ち込めていた。


同室の荒川 愛美も「うげ…なにこの臭い?」と鼻をつまむ。すぐに身支度を整えて食堂に行くと玉ノ井 勇太達は準備万端で「休みはおしまい。遂にスターク共が来る」と言う。


梶原 祐一も重ねるように「この臭いはユータレスからスタークが這い出てくる時の臭いだ。奴らを倒せばすぐに臭いが消える。これが消えないと言う事はまだ何処かに居るから探せって事だ」と言う。


無理矢理にでも食べろと言う指示のもと、全員で食事を摂ると武器を持って外に出る。

「今日は様子見のツユ払いしか来ない。本番は明日だ、今日は慣らしのつもりで行ってくれ!」

「怖いとは思うが東の京が前、俺達が怪我をさせないように後ろに控える!」


「5人1組のチームを作りましょう!」

「東の京はひとチームに2人入って、残りを荒川さくらと東武で固めるよ!」


皆が連携を取りながら東武と荒川さくらが率先して配置を決めて行く。

板橋 京子は梶原 祐一と宮ノ前 桜、後は東武学園の堀切 拓海と越谷 桃子と組む事になった。


梶原 祐一が「悪い、桜は身重だから負担の少ないチームにさせてもらう」と謝り、宮ノ前 桜が「皆ごめん」と言うと、堀切 拓海が「いいって、気にしない!」と言って越谷 桃子が「板橋さんだっけ?俺達も初回はこうして南北の連中に引っ張って貰ったんだ」と言う。

東部学園と荒川さくら高校は別の学校だが古い友達のように見える。


ここで板橋京子は市ヶ谷、南北高校の市ヶ谷 健太と呼ばれた人間がどうして亡くなったかを何となくだが理解した。

恐らくOJT中に後輩を庇ったのだろう。

本来なら同い年、同学年なのに1年も2年もこんな所で過ごして後から来た日本人を救うなんて余程のことがないとできない。



身が引き締まる思いに板橋 京子が「わ…私頑張ります!」と言うと梶原 祐一が「おう、頼りにしてる。まずはパチンコを打つ事に集中だ」と声をかけてくれる。そして最後尾の宮ノ前 桜に「桜!」と声をかけると宮ノ前 桜は「一時方角の壁の上!グジュグジュ!」と言って指をさす。


「板橋!壁の上を見ろ、あれがスタークだ!」


板橋 京子は指の方角、壁の上を見ると赤と紫と茶色が混ざった何かがいた。

グジュグジュとはよく言ったものだ、その名の通りグジュグジュになった傷口のような姿をしている。


「あ…あれ、生きてるんですか?」

堀切 拓海が「化け物、しかも殺意てんこ盛りで殺しにくる敵」と言って、越谷 桃子が「生き物とか思わないで!」と声をかけてくれる。


ここで梶原 祐一が「前方一時は梶原隊で受け持つ!パチンコ構え!」と声をあげ、言われた通りにパチンコを構えてスタークを狙う。一斉に放たれた5個の赤いビー玉はグジュグジュに当たると火柱を上げて燃え尽きた。


撃破後に梶原 祐一が「三ノ輪隊!状況確認してください」と言うと三ノ輪 彦一郎教師が「やってるよ。後は玉ノ井隊が2匹相手にしてる以外は皆1匹だね」と言う。


三ノ輪 彦一郎の言葉通り全隊がスタークと戦闘を終えると辺りに充満していた臭いは消えた。


「終わりだね。お疲れ様。東の京の子達は初日は簡単だから油断してしまうけど本番は明日と来週だから気をつけてね」

そう言った三ノ輪 彦一郎の言葉に首を傾げる豊島 一樹。


三ノ輪 彦一郎は「これがまず5日から6日ペースで続くんだ。初日は今みたいな様子見の偵察みたいなやつが来る。2日目はとにかく大量のグジュグジュが来て、3日目以降は量は抑え気味になる。そして最後はガチガチと名付けた硬い個体が出てくる。それを倒すと一周目が終わる」と説明をする。


「一周目…」

「そう、その次が二周目、大きな目で見るとこれが一周目の2日目に該当する。今度は大きなグジュグジュとブヨブヨと言う個体も含めてかなりの数が出てくる。しかも二周目の2日目が最高の物量で攻めてこられて徐々に量を減らしながら三周目まで続くんだ」


ここで豊島 一樹と組んでいた滝野川 元が「そんで、三周過ぎれば奴らも1週間のチャージ期間に入る。今まではそのチャージ期間だったって事」と言って、春日部 博が「ひどい時はチーム分けをしても細かいところまでケアできないから出来たら明日明後日で慣れてくれよな」と言って豊島 一樹の肩を叩いた。


それを聞いていた板橋 京子は一気に不安になる。


あれと1人で戦う。

今日はどうだった?

背中にいると思った堀切 拓海と越谷 桃子の安心感。

指示をくれる梶原 祐一、スタークを見つけた宮ノ前 桜。

本来なら全部アレを1人でやる必要がある。

独り立ちをしてスタークを見つける。

そして倒す。


その事実に板橋 京子は青くなり足が震えた。

横に居た宮ノ前 桜がかけてくれる「平気よ。私達は見捨てない」といった言葉。

その言葉は本当にありがたく縋りたいものだった。

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