第4話 勇者の条件。

東の京高校2年3組の生徒達が建物の扉を開けると中からエプロンと三角巾を身に纏った濃い小豆色の髪色をした女が小走りで近寄ってくると「ようこそコルポファに!私たちを助けてくださる勇者様達!」と挨拶をされた。


そのまま女は「1…5…15…18と…、今回はやや少なめですね。すぐにお召物を用意しますので着替えましたら左の食堂にいらしてください!」と言われると倉庫かどこかに消えた女からゴワゴワの軍服のような服を渡された板橋 京子達は「女性の方はお二階の右側、男性の方はお二階の左側のお部屋をお使いください。お部屋は生憎相部屋となりますが扉が空いている部屋はどこを使っても問題ありません!」と説明を受けて二階へと向かう。


先程まで居た異世界の城とは違い、何処か昔の建物のような…社会科見学で行ったことのある高度成長期の団地を模した通路と部屋のレプリカのような色使い、デザインの部屋。中は説明の通り2人部屋で板橋 京子は見慣れない女子と相部屋になる。


「…板橋さんだっけ?私、荒川。よろしくね」

「うん。ありがとう。よろしく」


挨拶を交わして、住んでいる地元の話をしながら着替えると「災難だったね、家から近い学校にしてたらここに来ないで済んだのにね」と荒川 愛美が言う。


「本当だね。ここって異世界とか言うところなのに服は軍服みたいで部屋も高度成長期の頃みたいだよね」

「下着も古臭いけど異世界感ないしね」


着替えて部屋の外に出ると「荒川、行こうよ」と言う少女達。「うん、板橋も行こう」と荒川 愛美に誘われた板橋 京子も荒川 愛美を誘った足立 玲奈と江戸川 里佳子と挨拶をしながら食堂を目指す。


食堂には入れず出口で全員が揃うのを待たされる。最後に豊島 一樹が来て「それではどうぞ歓迎会です!」といって開けられた扉の向こうには黒髪黒目…日本人達が居た。


「よう、来たな」

「頑張って生き抜こうぜ」

「本当、こんな世界でくたばってたまるかよな」

「おや…自習だったのですか?引率の先生が居ませんね」


口々に言われる言葉を処理できずに立ち尽くすと、最初に声をかけた男が立ち上がって「悪い、悪い、パニくるよな、俺達もそうだったんだ、コイツらもだよ」と言いながら「そっち、空いてるところに座ってくれよ。セオ、飲み物と食事を頼む」と指示をする。


とりあえず落ち着こうと言われて出された飲み物を飲むとそれはオレンジジュースだった。


豊島 一樹が「オレンジ?」と聞くと近くの男が「おう、種とか苗木を転移させてきたんだとさ」と答える。


そのまま豊島 一樹が「この場所は?」と聞くと男は「そこからだよな、とりあえず玉ノ井から自己紹介と説明してくれよ」と話を振った。


この言葉で皆に話しかけてきていた男が立ち上がって「俺は玉ノ井 勇太。皆に分かりやすく言うなら東武学園1年5組の玉ノ井 勇太だ」と名乗る。

聞き覚えのある名前に板橋 京子は「え?」と言って玉ノ井 勇太を見る。


「俺は3年目、今は18歳になる。今のところここでは最年長組だな」

「神隠し事件、表世界じゃ大騒ぎだろ?あれの二件目の被害者だよ。ちなみに俺は荒川さくら高校1年6組の梶原 祐一。2年目だから今度17歳になる」


処理不能の中、ここで一際歳をとった男が「僕は荒川さくら高校の三ノ輪です。専攻は社会でした。君達はどこ校かな?」と聞いてくる。


千代田 晴輝が「ひ…東の京です」と答えるとボロボロの地図帳が出てきて玉ノ井 勇太と梶原 祐一、三ノ輪 彦一郎が食い入るように地図を見て「やっぱり直線か…」「この分だと来年は京成学院だな」「いつまで続くんだ?」と話す。



話についていけない千代田 晴輝が必死に「その地図帳は?」と会話に入ろうとする。


「ああ、南北高校の赤羽って奴が地図マニアで趣味で持ち歩いていた地図だ」

この説明に板橋 京子は「南北高校…、最初に神隠しにあった?」と聞く。


「ああ、一番最初にこの世界に来て…全員死んだ。荒川さくらの奴等の歓迎会をやって最初のスタークで最後の1人も死んだ」

「ああ、荒川の奴を庇って市ヶ谷さんが亡くなった」


ここでようやく暫定でリーダーみたいな立場に着いている玉ノ井 勇太が状況の説明をしてくれた。


「簡単に言うと、神隠しはこのコルポファに転移させられる事になる。それで表世界では1日だが、こっちは1年が過ぎる。だから俺達東武学園の行方不明が表で2日前でも俺達からしたらもう2年になる」

この説明に疑問を持った板橋 京子が挙手をして「あの…ひとついいですか?」と聞く。


「どうした?」

「え?勇者召喚とかって言ってて勇者は私達のクラスの多摩君で…皆さんはなんで?」

そう、あの青い髪の姫は「予言書の通りです。そのお顔立ち、そのオーラ、見まごうことは御座いません」と多摩 剛を見て言った。

預言書に書いてある多摩 剛を呼ぶために巻き込まれたのは理解をしたが、そうなると東武学園と荒川さくら高校はどうしてここに居るのかわからない。


この質問に玉ノ井 勇太が「あ、わかったか。それ、多分嘘だ」と言った。

耳を疑う板橋 京子が言葉に困っていると、梶原 祐一が「玉ノ井さんと市ヶ谷さん、そして俺達の話、おそらくこれから聞く君達の話を統合すると見えてくるものがある。市ヶ谷さんから聞いていた南北高校の勇者は四ツ谷さんと言う男子生徒だったそうだ」と話を続ける。


「それで俺達東武学園の勇者様は鐘ヶ淵って奴な」

「俺達荒川さくら高校は小台」


ここで年長者の三ノ輪 彦一郎が「彼等には共通点があったんです」と言う。


「共通点ですか?」

「君たちのクラスの勇者は?」


ここで豊島 一樹が「多摩は中学の時もいじられっ子で気弱でインキャで、でもなんか深夜アニメなんかにはすげぇ詳しくて小遣い貯めてグッズとか買ってましたよ」と説明をする。


「やはりか」

「そうなるな」

「まあ4回も続けば思うよね」


話が再び見えない中で千代田 晴輝が「あの?何を?」と聞く。


「市ヶ谷さんの言っていた四ツ谷さんはソーシャルゲームオタク、運動からっきし、勉強パッパラパー、なんかギャルゲー好きでインキャだってさ。ちなみに鐘ヶ淵もほぼ同文。好きなのは異世界転移だかのアニメ」

「小台もほぼ同じだ。女にモテなくて漫画や小説、ゲームに没頭していた」



「…え?勇者の条件って異世界オタクとかですか?」

突然の事に豊島 一樹は唖然とした顔で聞き返していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る